■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第1回「インターネットによるエネルギー管理」
山武ビルシステム(株)
事業推進部CAN推進グループマネージャー 森田宏利氏
「設備設計/管理 最新ITレポート」の第1回は、「インターネットによるエネルギー管理」をテーマに、 山武ビルシステム(株)事業推進部CAN推進グループ マネージャーの森田宏利氏にお話を伺った。
山武ビルシステムは、計装機器・ビル管理システムの国内最大手で、IT活用による新しい事業展開を数年前から企画・実践している。 その1つの大きな成果が、電気・ガス・空調などのエネルギーの使用状況をインターネットにより管理する「エコモニタ」である。 この「エコモニタ」の開発の経緯とその内容、そして、実際の効果と今後の展望について伺った。
インタビューを通して、これからの時代における設備設計/管理の1つの方向性が見えてきた。
インターネットによるエネルギー管理
1.「インターネットによるエネルギー管理」開発の経緯
インターネットの活用でエンドユーザーとの距離感を縮める
2.IT時代のエネルギー管理の新しいスタイル
データサービス"エコモニタ"の概略について
3.環境への意識向上を目指して
エコモニタのシステム構成と価格
4.導入事例と実際の効果
5.エネルギー管理に対する設備設計者の反応
エコモニタに対する設備設計者の反応と今後の展開
6.目指すは"建物の環境に関するサービスセンター"
今後の展開について


Q「インターネットによるエネルギー管理」システム開発までの経緯を伺えますか?
『当社では、3年前に新規領域への展開として、「環境」、「IT」、「高齢化」の3つをキーワードに新しい事業展開を図ることを決定しました。
「IT」については、私が事業推進担当マネージャーとなりました。
そこでまず考えたのが、「これからの時代はお客様の近くにいなければならない」ということで、エンドユーザーにもっと近づくためにインターネットを活用しよ うと考えました。
インターネットを活用して、さまざまなことを行おうと考えましたが、手始めに、インターネットでビルディングオートメーション(以下BA)に関するさまざまな情報が入手できる情報サービスを開始しました。 それが「CANプラザ」です。
CANプラザは、建物管理・環境・省エネルギーをテーマとした、お客様と山武を直接結ぶ会員制の情報サービスサイトです。お客様の業務支援を大きな目的として、 1997年6月にオープンしました。CANは、Customer・Access・Networkの略で、"できる"のCANという意味も含んでいます。 最新のBA情報や、製品マニュアル、テクニカルサポートなど、15万ページに及ぶ各種情報をデータベース化しています。
このCANプラザを展開する中で、データサービスがお客様のお役に立つというコンセプトから、インターネットを利用したデータサービスを考えました。デー タサービスの最初はエネルギーからスタートしようということで、1999年10月に「エコモニタ」を開発しました。

【 IT時代のエネルギー管理の新しいスタイル 】
Qエコモニタの概略を伺えますか?

『エコモニタは、電気・ガス・水道・空調などのエネルギーの使用状況のをイン ターネットによりデータ収集・管理・監視するものです。
データ収集では、エネルギーの使用状況をWebを利用して自動収集し、データベースに格納が可能です。
エネルギー使用状況データは、インターネット経由でいつでもどこからでもモニタリングができます。
データ表示の特徴としては、

  • エネルギー使用量をグラフで表示できる。
  • エネルギー使用量を1時間単位/1日単位/月単位/年単位で表示できる。
  • エネルギー使用量を金額換算・1次エネルギー換算(原油量)・CO2量換算 (炭素量)ができる。
  • フロアやエリアなど、エリア別(系統別)に表示できる。
  • エリア毎や部門毎に使用量の大小を色やアイコンなどの映像化表示することによって、使用量の比較が一目瞭然でできる。
等が挙げられます。また、エネルギー使用状況を定期的にEメールで配信しています。 エネルギー使用量が設定を超過しそうな時には、随時Eメールで配信します。』
エコモニタ画面例1
電力24時間消費量の例を示します。
  • 消費電力量1日の用途別割合を把握します。
  • 1日の負荷変動が運用状況と合わせて妥当であるかを判断します。
トレンド・積層バーグラフ画面
円グラフ画面
エコモニタ画面例2
エネルギー消費状況アイコン

環境への意識向上を目指して 】
Qエコモニタのシステム構成と価格は?
『インターネットに接続できるPCをお持ちであれば、データサーバと簡易Webサーバ、各種計測機器を揃えるだけでエコモニタが導入できます。 価格は最小構成で300万円で、サービス利用価格は月々2万4,000円となります。』
Q思っていたよりローコストですね。
『皆さんが思っているよりローコストで導入ができます。データサービスに関しては、お客様にシステムをすべて揃えさせるのではなく、 できるだけ山武で揃えようと考えました。先程申し上げた「エンドユーザーにもっと近づくため」には、それが必要だと思いました。
Qお客様とはビルオーナーまたは企業の施設部や管理部になるわけですが、エコモニタのリリースから1年経って、反応はいかがですか?
『納入実績としては、約50件です。この数字が多いか少ないかは別にして、リリース前からわかっていたことですが、現時点の日本の企業の意識としては、 エネルギーデータサービスに対するニーズはまだまだ低いのが現状です。
エネルギーデータサービスは、多くの企業のニーズに応えて開発したものではありません。 環境が世界的な焦点になっている中で、環境後進国である日本もその世界的な流れに対応せざるを得ません。従って、当社は建物と環境に関わる省エネルギー等を実現する企業として、 環境への意識を高める社会的ミッションか ら、これからの時代をリードするための提案としてはじめたものなのです。
エコモニタは、すぐに省エネルギーを達成するシステムではありませんが、環境への意識を高める意味では、ITの時代にも対応した非常に画期的なシステムといえると思います。』

導入事例と実際の効果 】
Qエコモニタの導入事例について伺えますか?
『まだリリースから1年しか経っておりませんので、最も導入から時間が経過しているという意味で、 (株)山武の藤沢工場の事例をお話したいと思います。
(株)山武の藤沢工場では、業務課が担当となってエコモニタを導入しました。導入に当たって、 「全員に理解できる省エネ情報の提供」を目指しました。 そのために、各部門のエネルギー使用状況の数字を全部門にオープンにすることにしました。
いままでは、省エネを推進しても、共用部分の省エネは推進しやすいのですが、比較できる数字的根拠がないために、 各部門へは省エネ推進を強く要求しにくい面がありました。しかし、エコモニタの導入により数値的データを元に省エネ要求ができるので、 省エネ要求がやりやすくなりました。 また、各部門のエネルギー使用状況の数字を全部門にオープンにすることで、藤沢工場全体の環境に対する意識が一層高まりました。
省エネの効果としては、エコモニタの導入だけではなく、複数の効果により、 1年前と比べ約10%の省エネを達成しています。』
(株)山武 藤沢事業所
エネルギー計測システム画面例
エネルギー計測管理システム
エネルギー計測管理システム構成

エネルギー管理に対する設備設計者の反応 】
Q エコモニタに対する設備設計者の反応はいかがですか?
『設備設計事務所や、サブコン、ゼネコンの方々からも多くのお問い合わせを頂いております。 設備設計者の方は、現場のフォローアップをしたいということからエコモニタに対する高い関心を持たれています。
設備設計者の場合、現場が終わるとなかなか現場とのつながりが持ちにくいようですので、 エネルギー管理の導入は竣工後も建物やオーナーとのつながりが持ちやすいという意味でも注目して頂いております。
また、最近の大きなキーワードである「ESCO事業」や「コミッショニング」的な観点からも、エコモニタへの関心は高まってきています。』

目指すは"建物の環境に関するサービスセンター" 】
Qエコモニタの今後の展開について伺えますか?
最初に申し上げましたように、「インターネットを利用したデータサービス」を展開しようと考え、 最初はエネルギーのデータサービスからスタートしようということで、開発したのがエコモニタです。
今後はエコモニタを広く普及させることはもちろんですが、エネルギー以外のデータサービスを行っていこうと考えております。その中核にあるのが、CANプラザです。
CANプラザは、建物管理・環境・省エネルギーをテーマとした、お客様と山武を直接結ぶ会員制の情報サービスサイトですが、 CANプラザの究極の目標は「建物の環境に関するサービスセンター」になることです。 従って、いままでのお客様のみならず、さらに広い層の情報を集めた「建物の環境に関するサービスセンター」となり、 建物の環境に関わっている広い層の方々のためのサイトになる ことを目指しています。
今後、CANプラザでは、建物の環境に関するさまざまな情報提供を行うとともに、エネルギーをはじめとした建物の環境計測と評価を 行いたいと思います。また、建物の環境に関する各社の製品を扱うマーケットプレイスの開設も目指したいと思っています。
『設備設計ひろば』も志の高い、非常に素晴らしいサイトだとオープンの頃から注目しておりますが、 今後はぜひCANプラザと相互リンクなどのご協力関係を築ければと思っております。』

▼ 編集後記 ▼

『設備設計ひろば』では、設備のライフサイクルサポートを、インターネットをはじめとしたITを活用して行っていくことが、 今後社会から求められるとともに、設備設計者や設備会社にとって新しい職域・職能を開拓していくと注目している。
今回の記事からIT時代の設備設計/管理の大きな方向性が垣間見えるとともに、次の4点を再認識できた。

  • インターネットは、早く・安くを実現する素晴らしいインフラだということ。
  • コンピュータは、データをグラフや映像、金額などのわかりやすい形に変換できる便利なツールだということ。
  • 環境への意識の向上が設備設計/管理への強い追い風となること。
  • そして、ITの普及により"情報は独占することに価値がある"時代から、"情報は共有することに価値がある"時代へと変化していること。
特に設備のライフサイクルサポートに関する情報共有が可能になれば、客観的データを元に、環境やコストを考えた設備設計/ 管理が可能となる。
今回の取材で、その時代がもう手の届くところまで来ていると実感した。

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