■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第10回「モバイルCADと工数管理による建築工事現場の効率化」
(株)TAKシステムズ
システムグループマネジャー
土手 英俊 氏
(株)TAKシステムズ
システムグループ
前川 浩輝 氏
「設備設計/管理 最新ITレポート」の第10回は、「モバイルCADと工数管理による建築工事現場の効率化」をテーマに、(株)TAKシステムズ システムグループマネジャーの土手英俊と同社システムグループの前川浩輝氏にお話を伺った。
同社は、CAD関連事業、コンピュータ利用支援事業、電子データ化支援事業を展開する、竹中工務店の全額出資の子会社である。
本年7月から、同社では、モバイルコンピュータ専用CAD「PocketCAD」を発売するとともに、建設工事用工数管理システム「就労くん」を開発し、8月から販売している。
今回のインタビューでは、「PocketCAD」と「就労くん」の概略や、開発・販売の背景、モバイルによる工事監理の今後の展望などについてお伺いした。
インタビューを通して、建設現場におけるモバイル機器の活用の可能性が見えてきた。
モバイルCADと工数管理による建築工事現場の効率化
1.モバイルCAD発売の経緯
2.PDAでCADデータを携帯
3.建築工事現場の反応
4.現場総括所長の思いを実現した現場管理ツール
5.現場の工数管理を正確に管理
6.現場の情報化の今後の展望


【モバイルCAD発売の経緯】
Q: まず、モバイルコンピュータ専用CAD「PocketCAD」について伺いたいと思います。「PocketCAD」は米国のArcSecond社が開発元のようですが、御社で取り扱うことになった経緯についてお伺いできますか?
『私どもでは、CAD関連事業、コンピュータ利用支援事業、電子データ化支援事業を展開しておりますが、昨年の秋から新規ビジネスとして、建築工事現場の情報化に対する取り組みを検討しはじめました。情報化によって建築工事現場の業務の効率化とコストダウンを図るためのさまざまな検討を行ったのです。
その検討の中で、図面作成、特にCADデータの作成コストの軽減を図ることを考えたのです。と同時に、CADデータを広く活用する、つまり、CADで作成した竣工図をそのままファシリティマネジメント(FM)に使うことを念頭におきました。
「PocketCAD」
建築工事現場には、建設している現場と工事事務所があるわけですが、現場の所員が持っている情報のIT化を図るとともに、現場の所員と工事事務所、そして現場外とのコミュニケーションを図るCADを探したのです。その結果、「PocketCAD」と出会ったのです。
PocketCADは、米国のArcSecond社が開発元で、当社は日本の販売総代理店となり、本年7月から日本での発売を開始しました。』

【PDAでCADデータを携帯】
Q: PocketCADの内容を具体的にお伺いできますか?

『PocketCADは、PDA(パーソナル デジタル アシスト)などのモバイルコンピュータで動くCADソフトです。
CADデータのフォーマットが、DXF、DWGに変換できるものであれば、PDAでパソコンと同様にデータを加工修正ができます。また、フリーハンドの加筆も簡単に行えます。
「PocketCAD」の画面例
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データは1GB、約1,000枚分の図面が入ります。
データのコピーや共有は、ファイルをドラックアンドドロップするだけでできますので、まったく手間になりませんし、データの一元管理も可能です。また、PocketCADから赤外線でプリンタから図面を出力することもできます。
用途としては、現場で図面を見る、現場で図面を修正する、PDAによってはカメラで現場の写真を撮るなどが挙げられます。
建築工事現場の現状は、紙の図面と野帳(現場ノート)の両方を持ち歩き、両方に書き込んでいます。そして、現場の作業が終わった午後5時以降に付け合せや、情報の集約と正本の訂正を行っています。従って、現場に常駐している工事管理者は、夜遅くまで仕事をしているのが現状です。
PocketCADを利用すれば、PDA1つを携帯すれば図面と野帳を持っているのと同じですので、重い製本から開放されるとともに、作業員の安全性も向上します。また、PocketCADで図面を修正していれば、PDAとサーバーを繋ぐだけで簡単に付け合せや、情報の集約と正本の訂正が完了し、管理者が夜遅くまで仕事をする頻度も少なくなります。』


【建築工事現場の反応】
Q: PocketCADのユーザー側の反応はいかがですか?
『現場での反応は、PDAによるCADデータの携帯や活用は時代の流れだと思っている人が多いですね。
ほとんどのCADがDXF、DWGに変換できますので、PocketCADは必ず使えることから、現場にCADが入っていれば、関心は非常に高いです。
PocketCADの価格は、38,000円で安価といえると思うのですが、PDA本体が約60,000円、マイクロドライブ(1GBのハードディスク)が約40,000円なので、ハードとソフトの総額が約140,000円となります。現場所長の決済で購入できる金額ということもあり、ハードとソフトの総額が100,000円以下にしてほしいという要望が多いですね。ただし、この用途が図面の確認や修正だけでなく、もっと多くのことができれば、150,000円程度でもコスト的に見合うという現場所長も多いです。
PocketCADは、約3年前にリリースされ、Ver.3が出た昨年の9月から米国で大きく注目され始めました。例えば、クライスラービルのリニューアルの際に、現状入力デバイスとして、大変活用され注目を集めました。また、世界一の航空会社の飛行機の機体チェックにも使われています。
PocketCADは現在のバージョンがVer.3.2で、当社の依頼で日本語が読めるようになったのもこのバージョンからなので、まだいくつか課題もあります。
しかし、9月末頃リリース予定のVer.4.0Jでは、それらの課題が解決される予定です。また、図面の確認や修正だけでなく、将来的には、検査情報を入力する、データの属性を入力する、図面の建具をクリックするとExcelのデータと連動するなどの機能が予定されています。』

【現場総括所長の思いを実現した現場管理ツール】
Q: つづいて、御社が開発した、建設工事用工数管理システム「就労くん」について伺えますか?
「就労くん」画面例<1>
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『「就労くん」は、PDAとパソコンで動く建設工事の工数管理ツールです。竹中工務店が設計/施行したある物件の現場総括所長の要望に応えて開発したものです。現場総括所長が、要望として持っていた日報をはじめとする書類のIT化と安全管理を高めるために有効なツールとして開発しました。
開発の第一段階は、現場総括所長の思いを理解することから始まりました。開発した私(前川氏)は、竹中工務店で現場の経験もありましたので、その打合せと開発の期間は、2ヶ月という短期間で開発できました。その後、その現場で実際に使用してもらいながら要望に応えた改善を行い、現在のバージョンになっています。従って、現在のバージョンには大変満足して頂けるものになっています。
このソフトは、Webを使って入力します。Webにしたのは、マクロが動かないなどの課題をWebでプログラムを動かすなどの工夫によって軽くし、現場だけに閉じない群管理ができるようにするためです。
データベースはAccessですが、ブラウザを動かすだけで使えますので、ブラウザの操作ができれば誰にでも使えるものになっています。
「就労くん」で入力したデータは、サーバーで一元管理されます。ユーザーは、余分な管理業務を考えることなく、日々の工数を把握でき、一元管理も可能です。
日報のデータは、ウイザード形式で作成します。ユーザーは、画面の指示に従って選択項目を選ぶだけで、誰でも簡単に月報を作成することが可能です。これは、現場の「入力は面倒でいやだ」というニーズに応えて、できるだけ入力を簡単にしたものです。また、修正作業も簡単にできるようになっています。』


【現場の工数管理を正確に管理】
Q: これまで、就労管理、工数管理はどのように行われていたのですか?
「就労くん」画面例<2>
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『当日の作業員数の把握は、ホワイトボードの人数を数えているケースがかなり多いようです。建設工事の工数管理は、正確にという意味では、どのゼネコンの場合でも、なかなかできているようで、できていないのが現状だと思います。「就労くん」を使えば、建設工事の工数管理が正確にできるようになります。
それから、「就労くん」を導入するメリットとしては、作業項目の表現の統一が図れる、データ集計が簡単にできる、コスト計算との連動が可能などが挙げられます。
作業項目の表現の統一については、現場で統一された用語には完全にはなっていないケースが多く、常に問題点になっています。これも「就労くん」を導入することで、統一が図れるのです。
いままで、できているようで、できていないことや、統一されているようで、統一されていないことが、いろいろあります。「就労くん」を導入することで、それらを統一し、正確に実施するための実践がはじめられると思っております。』

【現場の情報化の今後の展望】
Q: 現場の情報化の今後の展望について伺えますか?

「就労くん」画面例<3>
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『PDAは、これからどんどんそのスペックが高くなっていきます。そうなると、もっと多くのデータが入り、さまざまなことができるようになります。
ハードの性能が向上する中で、より現業のニーズを反映したことを行うためには、現業を良く知っている必要があります。その意味で、現業を良く知っている当社が関わり、開発を進めていくことは、ニーズに即した効果の高い現場の情報化を実践ために、有効だと自負しております。
今後は、CADだけでなく、本社やセンターとインターネットで情報のやり取りを行い、スケジューラーなどのグループウェアとの連動まで図りたいと考えています。
「就労くん」画面例<4>
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建築工事現場では、事務所で作られる重要な情報は少なく、現場で作るべき情報が重要なのです。事務所はその情報を加工する場といえるでしょう。従って、現場における初期情報をいかにデータ化するかが重要です。初期情報をデータ化するには、PDAの活用しかありませんので、建築工事現場においてPDAを有効活用することが、現場の高効率化を図るために、不可欠といえるでしょう。
今後は、現場のデスクトップPCの数を減らし、1人1台のPDAという環境を実現するための開発や提案を行っていきたいと思います。』

株式会社 TAKシステムズ
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