■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第11回「オフィスの生産性向上のための設備設計のポイント」
(株)エフエム・スタッフ
常務取締役
住吉 正勝 氏
「設備設計/管理 最新ITレポート」の第11回は、「オフィスの生産性向上のための設備設計のポイント」をテーマに、(株)エフエム・スタッフ 常務取締役の住吉正勝氏にお話を伺った。
同社は、オフィスコストの軽減・最適化とオフィス環境の質の向上を達成する“オフィスマネジメントサービス”や、発注者のパートナーとして、発注者の立場でリニューアル工事などの「プロジェクト」全体をマネジメントする“プロジェクトマネジメント”を行うコンサルティング会社である。
オフィスの効率と品質の追及のニーズが高まる中で、多くのクライアントから高い支持を得ている注目の企業である。
今回のインタビューでは、同社の設立の経緯や事業の概略、そして、オフィスの生産性と品質の向上のために求められる設備設計のポイントを中心にお話を伺った。
インタビューを通して、クライアントが求める設備設計へのニーズが見えてきた。
モバイルCADと工数管理による建築工事現場の効率化
1.会社設立の経緯と事業の概要
2.具体的業務について
3.オフィスを選定する3大要素
4.設備設計者に求められる視点
5.2003年問題
6.改善すべき「ブラックスボックス」の世界
7.求められるニーズに応えた、開かれた設備設計の実践


【会社設立の経緯と事業の概要】
Q: まず、御社の設立の経緯と事業の概要についてお伺いできますか?
『当社は、大手家具メーカーであるイトーキから2000年の2月に分社し、イトーキが50%を出資し設立された会社です。ご存知のように、イトーキは家具の製造・販売だけでなく、オフィスの設計や、IT化をはじめとするオフィスの生産性と品質の向上のための“オフィスマネジメントサービス”に関する数多くのノウハウを持っています。これまでは、このノウハウがイトーキの家具を販売するために活用されていたわけですが、イトーキの家具の販売と切り離した独立した会社としてこのノウハウを活かし、クライアントに貢献するために設立されたのが当社なのです。
当社は“オフィスマネジメントサービス”とともに、発注者のパートナーとして、発注者の立場でリニューアル工事などの「プロジェクト」全体をマネジメントする“プロジェクトマネジメント”も業務の大きな柱となっています。以前は、オフィスのリニューアルや移転の際に、企業の総務部が工事会社の見積りや内容のチェックを行っていましたが、企業のリストラにより総務部の人員が減り、これらの業務を行うプロフェッショナルの必要性が高まり、そのニーズに応えるため、オフィスのリニューアルや移転に関する“プロジェクトマネジメント”を実践しているのです。
欧米では、当社のようなコンサルタント会社への発注は一般的となっています。』

【具体的業務について】
Q: 実際には、どのように業務を進めるのですか?
『当社では、アライアンス形式を導入しています。アライアンスとは、プロジェクトに応じて適切なチームを組織するために、外部のプロフェッショナルの方々と協調することです。当社では、お客様の課題発見・解決のために、常に外部のプロフェッショナルの方々と良好な相互信頼関係を有しています。
実際、プロジェクトごとに、必要な知識と経験を持つプロフェッショナルの方々と組織を組み、プロジェクトを成功させてきております。デザイン担当、IT担当、AV担当、建築担当、設備担当の5つのパートについて、外部のプロフェッショナルとアライアンスを組んでいます。さまざまなパートのプロフェッショナルとの協調が、優れた結果を生み出す要因となっているのです。このアライアンス形式は、米国では一般的に導入され、主流となっています。
私どもは、このアライアンス形式によって、オフィスの設計はもちろん、建築設計や設備設計、IT化までを含んだトータルな“オフィスマネジメントサービス”並びにオフィスのリニューアルや移転に関する“プロジェクトマネジメント”の実践が可能なのです。』

【オフィスを選定する3大要素】
Q: オフィスの効率と品質の追及のニーズが高まる中で、クライアントはどのような設備設計を求めているのですか?
『例えば、クライアントがオフィスを移転する際に、オフィスを選定する3大要素は、「個別空調」、「二重床」、「電気容量」です。
特にこの中で重要なのが、「個別空調」です。日本人は、「広い・狭い」は我慢できますが、「暑い・寒い」は我慢できないのです。IT化が進展する中で、オフィスにはPC、サーバー、プリンター、コピー、自動販売機など、機器が溢れてきています。つまり、“IT時代はオフィスが暑い”のです。だからといって、空調機の性能を高めるだけでは何の解決にもなりません。暑さ寒さの体感温度は、男女で違いますし、かなり個人差があります。従って、個別空調が必要となっています。
ブリーズライン(天井照明の横からの空調)は、デザイン的にはキレイですが、
その直下にいる社員は直接空調にあたるため、冷房の際は大変寒く、暖房の際は大変暑いという弊害が出ています。また、天井かき混ぜ方式のビルでは、風邪が流行りやすいと言われています。これらの問題点を解決するのが「床下空調」だと思います。床下空調にすれば、これらの問題点が解決されるばかりか、天井ダクトがいらなくなり、天井を約50cm高くでき、天井設計の自由度が高まるというメリットもあります。床下空調は、まだイニシャルコストが割高となってしまいますが、今後普及すれば、需要と供給のバランスでイニシャルコストも下がり、天井空調と同等か割安になるはずです。
また、いよいよ環境の時代を迎え、省エネは待ったなしで進んでおります。省エネという観点から見ると、部屋全体を冷やすのは問題があります。ある試算では、個別空調は約40%の省エネを達成するという結果も出ています。この意味でも、床下空調は、時代の要請といえるのです。』


【設備設計者に求められる視点】
Q: クライアントの立場から見ると、設備設計者にはどのような視点が求められますか?
『例えば、ビルの設計であれば、ビルを利用する利用者のための設備設計という視点が最も重要です。しかし、残念ながら、現在は供給者の立場に立った設備設計が多く、利用者側の立場に立った設備設計が大変少ないのが現状です。
オフィスの場合の利用者側とは、ワーカーとなりますが、そのワーカーをまとめる企業の総務部を利用者側の代表と捉えてもいいと思います。日本の企業の場合、総務部が各部署の要望やクレームをまとめ、把握しているケースがほとんどなのです。そして、オフィスのリニューアルや移転の担当部署となっているのです。従って、総務部のニーズに応えた設備設計を設備設計者は今後考えるべきだと思います。
いま、総務部の一番大きな悩みは、「喫煙対策」です。アンケートを取っても、この「喫煙対策」が一番の問題点となっています。喫煙テーブルや喫煙コーナーによる対策では限界があります。吸い込んだ煙はビル全体に排気されてしまっているのです。そして、タバコのにおいは、現在のところ防ぎようがないのです。
従って、タバコを吸う人を隔離する必要性も高まりつつあります。タバコに関して言えば、日本のオフィスは「人種差別」の時代となりつつあるのです。この隔離以外の対応策としては、強制排気があります。自社ビルであれば、強制
排気は大変有効な方法です。しかし、テナントビルは強制排気が実施しづらいのが現状です。
総務部の一番大きな悩みである「喫煙対策」は、逆に設備設計者にとって大きなニーズの発見だと思います。喫煙問題を解決するための設備設計を考察し、提案することは、大きなビジネスチャンスになると思います。』

【2003年問題】
Q: 「喫煙対策」の他に、設備設計者にとってのビジネスチャンスは何かありますか?
『ご存知のように、汐留をはじめとして、2003年の竣工を目指したの大規模なプロジェクトが進んでおります。2003年には、新しいオフィスビルが数多く竣工するため、オフィスの供給が過剰になります。我々は、これを「2003年問題」と呼んでいますが、2003年は、ある意味でビルオーナーの危機なのです。2003年に最新設備を備えた新しいオフィスビルが数多く竣工することで、相当数のオフィスの移転が行われます。つまり、所有するビルに付加価値がないと、借主が移転してしまう可能性が高いのです。従って、所有するビルに付加価値つけるニーズが高まるのです。 設備設計者は、これを好機にビルの付加価値を高める提案をすべきだと思います。もちろん、利用者側のニーズに応えた提案でなければ意味がありません。ここでも利用者のための設備設計という視点が重要なのです。 利用者側のニーズに応えるためには、先程の個別空調はもちろん、天井高、電気容量、二重床をはじめとした工夫が求められます。 また、スケルトン貸しの実施を思い切って行うことも、大変有効です。 いずれにしても、オフィスのデザイン、設備機器等の自由度をいかに高めるかが重要といえるでしょう。』


【改善すべき「ブラックスボックス」の世界】
Q: クライアントの立場に立ってご覧になって、設備設計分野で改善すべき点は何ですか?
『設備の世界は、「ブラックスボックス」的な面が多いと思います。クライアントにとって専門用語が多すぎわかりにくい点と、単価がわかりにくい点が、設備の世界は「ブラックボックス」と思われてしまう大きな要因です。
カロリー、ジュールなど、専門用語が多いため、企業の総務部長にはわかりにくく、理解する気にならないという方も多いのです。また、企業の総務部長から見ると、価格も不透明と思われています。
オフィスのリニューアルや移転の際に重要なのは、スケジュール管理と予算管理です。企業の総務部長は、“いつ、何をすれば良いのか”、“いくらの予算を用意すれば良いのか”が最も知りたいことといえるでしょう。
従って、企業の総務部長のニーズに応えるためには、深いが狭い知識より、浅いが広い知識が求められ、わかりやすい提案が求められるのです。企業の総務部長ができるだけ理解しやすい言葉に置き換え、思い切って大まかな坪単価を出すことは、大きな信頼を得ることとなり、受注にもつながる有効な方法だと思います。
実際、当社ではできるだけわかりやすい言葉で説明し、大まかな坪単価を出し、概算予算を提案していますが、大変好評です。大まかな坪単価は、これまでの経験から算出したものなので、実際の実行予算に概ね近い数字とすることができています。』

【求められるニーズに応えた、開かれた設備設計の実践】
Q: 設備設計には、まだまだやるべきことが多そうですね?

『設備設計者が、利用者側のニーズ、社会のニーズに応えて提案・実践できることが、まだまだ数多くあると思います。設備設計者は、もっと利用者や、利用者の意見を集約している総務部の方々の話を聞く機会を増やすべきだと思います。もっとオフィスを訪れ、ニーズがどこにあるのかを検証すべきです。
そして、クライアントが理解しやすい提案を行うとともに、情報をオープンにして、クライアントと情報を共有し、よりニーズにマッチした設備設計を行って頂きたいと思います。情報はオープンにすることで、さらに付加価値が高まります。そして、情報は発信したところに必ず戻ってきます。従って、情報は早く発信した方が得なのです。
利用者や社会のニーズに応え、開かれた設備設計を実践して頂けば、さらに多くの新しいビジネスチャンスとも出会えると思います。』

株式会社 エフエム・スタッフのURL
http://www.fmstaff.co.jp/

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