■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第13回「建物およびエリアにおけるIT環境整備コンサルティング」
宮原氏 顔写真 ブロードバンド・エンジニアリング(株)
取締役 事業・技術部長
宮原 博 氏
「設備設計/管理 最新ITレポート」の第13回は、「建物およびエリアにおけるIT環境整備コンサルティング」をテーマに、ブロードバンド・エンジニアリング(株)取締役 事業・技術部長の宮原 博氏にお話を伺った。
同社は、日本最大手の総合設計事務所である(株)日建設計と、Global IP CompanyであるNTTコミュニケーションズ(株)が共同出資により設立した、建物およびエリアにおけるIT環境の整備に関するコンサルタント会社である。
今回のインタビューでは、同社を設立した経緯やその提供サービスの概要、そして、IT時代に求められる建物のIT環境の在り方などについてお話を伺った。
インタビューを通して、IT時代における建物のIT環境整備の在り方や、これからの時代に求められる建物の環境構築・運用における新しい役割が見えてきた。
建物およびエリアにおけるIT環境整備コンサルティング
1. 事業の概要と会社設立の経緯
2. 提供サービスの概要
3. 「ビルIT工事」という新しいカテゴリーの必要性
4. 「ビルIT工事」の具体的な内容
5. IT環境整備の注目技術
6. ビルオーナーの反応
7. J−REITで変わるオフィスビルの評価


【事業の概要と会社設立の経緯】
Q: まず事業の概要と会社設立の経緯についてお伺いできますか?
『当社は、(株)日建設計とNTTコミュニケーションズ(株)の共同出資により2001年5月に設立された会社で、建築および都市計画と情報通信技術の融合を図り、IT環境の整備に関し、企画、設計および建設・運用管理のコンサルティングサービスを行うことを主たる目的としています。
昨今のコンピュータの高性能化、低価格化と通信の大容量化、高速化によるインターネット活用の急激な進展は、着実にビジネスへの取り組み方やライフスタイルを変えつつあります。これにともない事務所、学校、病院などの建物や再開発などの整備地域において、IT環境の整備に関する高度で総合的かつ迅速なコンサルティングサービスが強く求められてきています。
このような市場ニーズを踏まえ、日本最大手の総合設計事務所として、“社会環境デザインの先端を拓く専門家集団”を目指し、建築、土木の設計監理、都市計画業務を通じて施設と一体化したIT環境整備に関する業務を展開しております日建設計と、"Global IP Company"を目指し、単に通信サービスの提供にとどまらず、IP(インターネット・プロトコル)技術をベースとしたさまざまなコミュニケーションサービスを開発し提供しておりますNTTコミュニケーションズが、双方の強みを相互補完的に発揮するとともに、拡大・高度化するクライアントニーズに的確に応えることを目指し、設立したのが当社です。』

【提供サービスの概要】
Q: 顧客対象と提供サービスの概要についてお伺いできますか?
『私どもでは、既存ビルの高付加価値化を望むビルオーナー、建物および地域開発においてIT化戦略を図る事業者、高度情報化ビルの建築を目指すオーナーの方々などを顧客対象としております。
提供サービスとしては、「建物、設備に次ぐ第3のインフラとして施設のIT環境の整備」、「ITを活用した施設のファシリティ・マネジメント(FM)業務環境の整備」、「ITの応用展開として施設のアプリケーション環境の整備」の3つをコアコンピタンスとしています。
いうまでもなく、ITはもの凄い速度で進展しています。このITの進化の速度を考えると、ビル単体でIT環境の整備を考えるのでは、すぐに陳腐化してしまい、場合によっては大掛かりなシステムの入れ替えが必要となり、コストがかさむだけでなく、大変な手戻りが発生しかねません。従って、日進月歩で進化するITをより効果的に活用するためのビル内やエリアなどでの最終的な環境整備、すなわち、“ラスト・ワン・チェーン”と呼ばれている環境整備が、これからは必要不可欠となるのです。
この“ラスト・ワン・チェーン”を実現するためには、ITや通信のエキスパートとしての専門技術・ノウハウはもちろん、顧客の目的・用途・規模・予算に最適な実用化を提案できる総合的な能力が必要です。この新しい領域ともいうべき役割を担うのが私どもなのです。』

【「ビルIT工事」という新しいカテゴリーの必要性】
Q: この領域は、いままででいうと電気工事業が担っていた領域なのですか?
『電気工事の専門家とITの専門家では、専門知識や技術・ノウハウがまったく違います。これまでの電気工事業の範囲では担えない領域といえるでしょう。
これまで、ほとんどのビル建設工事は、「建築工事」、「電気工事」、「機械工事」の3つの工事で済んでいました。しかし、これからはこの3つに「ビルIT工事」というカテゴリーが必要となってきます。
これまでは、ビルの基本インフラといえば“電気・空調・衛生”でしたが、これからの社会においては、“IT通信”が大変重要な基本インフラとなるのです。
設備工事費は、建築工事費の全体の約35%といわれています。電気工事は建築工事費全体の約8〜10%、IT工事は建築工事費全体の約3〜5%といわれています。イニシャルコストで見るとIT工事はそれほど大きなコストではありませんが、ランニングコストで見ると大変大きなコストとなります。企業により違いはありますが、エネルギー費用で見ると、建築1に対してITは2というのが平均的な数字といわれており、そのコストの大きさが理解いただけると思います。弊社も「ネットワーク・コンサルティング」として電話を含めた通信費の20%程度のコスト削減支援を行っておりますが、「ビルIT工事」はコスト管理すなわち経営という観点からも非常に重要なカテゴリーなのです。
この「ビルIT工事」で行うのは、主に通信幹線整備(ビッグパイプサービス)、テナント内のIT関連工事、BA(ビルディング・オートメーション)、BIS(ビルディング・インフォメーション・システム)の4つです。』


【「ビルIT工事」の具体的な内容】
Q: 「ビルIT工事」で行う4つについて、詳しく伺えますか?

『「ビッグパイプ」とは、光ファイバーをビル内の基幹インフラとして敷設し、一括管理された共用の高速幹線をテナントに提供するものです。ビッグパイプにより、どのような形態のテナントが入居しても、納得のネットワーク環境を構築できるゆとりある基幹インフラが提供できるとともに、今後の通信技術の変化にも柔軟に対応していくことが可能となります。
また、ビッグパイプサービスにより、ビルオーナーはITの変化に対してのリスクが軽減できるとともに、不動産付加価値を大幅に高められます。一方、テナントは、快適な通信環境が得られるとともに、高速大容量の直収サービスなどの恩恵により、通信費を大幅に削減できるというメリットを享受できるのです。
すでにテナントの中には、ビルの通信サービスの充実度を物件選択の重要なポイントにしている企業が増えてきています。従って、このビッグパイプサービスは、今後ますますニーズが高まってくるもので、私どもとしても重要視しております。
「テナント内のIT関連工事」は、社内ネットワーク構築・整備や通信費削減のためのコンサルティングなどを行うサービスです。インターネットデータセンタ(iDC)によるアウトソーシングサービスで、テナントの効果的なIT化やTCO削減を実現し、テナント誘致の有利な条件を整えます。
また、最近の多くのニーズがある無線LANのために、建物側の対応(内装、躯体シールドなど)も行っております。
「BA」については、一般的には単なる“自動制御”と捉えられていますが、「BA」とは、本来“建物の設備を効率的に運用していくためのシステム”なのです。これまでのBAは、特定のメーカーのシステムを導入し、専用の端末で管理し、その運用管理費が発生するというものでした。しかし、空調機器などの設備機器の制御は、すべてIP制御にでき、しかもADSLなどの普及により大容量のデータの送信が可能となったので、センターでの集中監視制御および管理が可能となりました。従って、すべての設備機器の制御をIP制御にすることにより、大幅なコストダウンとセンターによる効率的な管理と測定が可能となるのです。私どもでは、このIP制御によるBAの構築のコンサルティングを実践しています。
このような業務支援の他、会議システムや各自の端末機でビル環境制御を行うユーザーズ・オペレーションなど様々なアプリケーションを提供するASPが
増加しており、これら提供先と連携する仕組を支援することが求められています。
また、ASPとiDCを接続する際のデータセキュリティも大変重要になってきました。発行者を特定する認証やデータの暗号化技術支援のニーズに応えて、情報セキュリティのコンサルティングを行うのが「BIS」です。』


【IT環境整備の注目技術】
Q: 新しいIT技術として、どのような技術に注目されているのですか?
『1つだけ例を挙げますと、私どもでは、新しいIT技術として「RFIDタグ」に注目しています。
“RFID”(Radio Frequency Identification)は、媒体に電波・電磁波を用いてデータ通信を行う自動認識技術で、“RFIDタグ”とは、超小型無線自動認識ICチップのことです。
RFIDタグは、バーコードに変わる技術といわれ、いままで課題となっていたコスト面での採算ポイントが見えてきたことで、米国をはじめとする先進国で市場本格化の動きが活発化してきています。日本でも今年をRFIDタグの“普及元年”として、“次世代バーコード”の確立へ向けて、産業界のみならず、官民共同組織などが動き出しているところです。
バーコードとの大きな違いは、無線読取装置が認識できる範囲内にある限り読取装置に向けなくても、実際にタグが見える状態でなくても、複数同時に読み取ることができることです。他にも、データ量が大きいことやデータの書き換え可能な種類もあることなど“次世代バーコード”とは言われていますが、バーコードではできなかったソリューションが可能になります。
このRFIDタグにより、サプライチェーンをはじめとするさまざまな分野で革命が起きるといわれています。もちろん、建物のIT環境整備にも大きな影響を与えます。例えば、これまでビルのセキュリティ管理などではICカードによる管理をしていましたが、RFIDタグが普及すると、従来型ICカードと取って代わることになるでしょう。』


【ビルオーナーの反応】
Q: ビルオーナーにとって、大変頼もしいパートナーだと思いますが、実際のビルオーナーの反応はいかがですか?
『私どもでは、ビルオーナーや建物および地域開発の事業者などの方々に、「有効なITツールを活用して、建物や都市の環境を再構築しましょう」と提案しています。提案すると、概ね反応はいいですね。しかし、景気の悪化により、提案は理解していただいていても、それを実行するための予算がないということで、提案がなかなか導入には結びつきにくいのが現状です。
しかし、ニーズは高いものがあります。私どもは、メーカーやITベンダーではありませんので、製品やシステムを販売することが目的ではありません。その意味で、顧客のニーズに合わせた環境構築を自由に行える強みがあり、顧客の方々には歓迎されています。しかし、一方で、メーカーやITベンダーでもない“第三者”がIT環境整備の構築のコンサルティングを行うのは、初めてといってもいい試みですので、新しい分野の開拓を行っているというべき面もあり、試行錯誤を繰り返しているというのが現状です。成果ももちろん出ていますので、高いニーズを元に、パイオニアとして、さらに成果を高めたいと思っています。』

【J−REITで変わるオフィスビルの評価】
Q: ニーズが高い中で、市場を切り開くキーワードはなんでしょうか?
『J−REITの普及による、不動産の証券化が1つのキーワードだと思います。REIT(リート)とは不動産投資信託のことで、J−REITは、日本版不動産投資信託のことです。投資家から預かった資金をビル、マンション、オフィス、倉庫などの不動産を中心に運用し、そこからあがる賃借料、売却益を投資家に配当する形態が不動産投資信託です。
J−REITが普及すると、ビルなどの不動産の評価・格付けが一般化し、収益性の高い不動産が最も価値が高いという価値観が広がります。収益性が高い不動産とは、オフィスビルを例にすると、テナントからの入居希望が多く、しかも高い賃料が設定できるビルのことです。テナントから支持される条件としては、立地条件の他に、建物の構造や、維持管理および設備関係の良し悪しなどのさまざまな条件が大きく関係します。中でも、維持管理および設備関係については、最寄駅から5分以内という条件よりも重視されるポイントとなっており、この格差によって大きく評価が違うという調査結果が出ています。従って、J−REITの普及によって、IT環境の整備やITによる最適な維持管理の必要性は非常に高まり、不動産の収益性を高めるために、必要不可欠になっていくでしょう。
REITは、米国では40年以上の歴史があり、定着した投資信託となっていますので、J−REITも間違いなく普及し、市場を切り開くキーワードとなると確信しています。』

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