■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第14回「IT応用省エネルギー制御技術開発」
工藤氏 顔写真 (財)省エネルギーセンター
制御技術開発プロジェクト室長兼技術部部長
工藤 博之 氏
「設備設計/管理 最新ITレポート」の第14回は、「IT応用省エネルギー制御技術開発」をテーマに、(財)省エネルギーセンター 制御技術開発プロジェクト室長の工藤博之氏にお話を伺った。
同センターは、“電力問題”や“環境問題”が大きな話題となる中で、その活動に、さまざまな分野から注目を集めている団体である。
今回のインタビューでは、同センターが中心となって開発した、家庭、オフィス、店舗、工場のエネルギー使用機器をシステム全体で最も省エネルギーになるようにネットワークで監視制御するシステムについてお話を伺った。
インタビューを通して、エネルギーマネジメントの重要性と、省エネルギーの今後の明るい可能性が見えてきた。
IT応用省エネルギー制御技術開発
1. システム開発までの経緯
2. 参加メンバーと選定方法
3. 開発を強力にバックアップした技術開発委員会
4. 省エネ目標数値と具体的な成果
5. 求められる省エネ効果の有用性のアピール
6. エネルギーマネジメントが拓く、省エネの明るい未来


【システム開発までの経緯】
Q: まず、家庭、オフィス、店舗、工場のエネルギー使用機器をシステム全体で最も省エネルギーになるようにネットワークで監視制御するシステムである「IT応用省エネルギー制御技術開発」に取り組んだ経緯についてお伺いできますか?
『オイルショックを契機として省エネルギーの必要性が理解され、まず産業界で地道な省エネ努力が重ねられてきました。さらに、地球温暖化防止の一対策として、一層の省エネ努力が求められています。そこで、最近家庭にも普及しつつあるネットワークを使って、もっと簡単に省エネが出来るシステムを作ろうということで、「IT応用省エネルギー制御技術開発」プロジェクトを始めました。
このプロジェクトの始まりは、1999年の春に、経済産業省から“省エネ研究開発テーマ”に関するご相談を受けたことでした。
私ども(財)省エネルギーセンターは、ビルや工場などの「省エネルギー診断サービス」を数年前より行っておりまして、その調査結果から、次の2点が見えてきました。
1つは、診断を行った工場、ビルでは、省エネ機器も多く導入していますが、使用方法でまだ改善が必要で、上手に使われていないという点です。
2つ目は、特に家庭やビルにおいてエネルギー消費の伸びが大きく、もっと賢い省エネを行う必要があるという点です。
この2つの点から、電力不足の問題に貢献する省エネルギーの実現のために、「機器単体だけでなく、ネットワークで結ばれた機器全体を最も省エネになるように制御するシステムを開発してはどうか」という提案を経済産業省に対し行いました。
経済産業省の要望の1つに、“短期間で省エネ効果が出るものを行う”ということがありしたので、その要望にも合致しているということで、このプロジェクトは、翌年の2000年にスタートすることになりました。実際には2000年12月にスタートしまして、本年3月までの約2年4ヵ月で完了するという、短期間のプロジェクトでした。』

【参加メンバーと選定方法】
Q: 本プロジェクトに参加しているメンバーと、その選定方法について伺えますか?
『本プロジェクトの予算は3年で約19億円ですが、その予算の半分を国が負担し、残りの半分を参加メーカーが負担するという条件でした。そこで、代表的なメーカーに声を掛けて、賛同したメーカーと大学をメンバーに、取り組みをスタートしました。
この取り組みは、このプロジェクトで終るものではなく、今後メーカーで商品化し、導入、普及を図り、発展を続けていく必要があります。将来的には特定のメーカーに限定されずに、さまざまな機器をネットワークで繋げることを想定しています。従って、業界標準にしていく必要がありますので、その意味でも、代表的なメーカーに参加していただく必要があったのです。
なお、本プロジェクトの国側の負担は、経済産業省資源エネルギー庁からの補助金で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて補助を受けておりますので、NEDOとの共同研究という形態になっています。
本プロジェクトの対象は、当初、工場だけで考えておりましたが、経済産業省からの要望で、ビルと家庭についても対象とすることになりました。
受託研究機関としての参加メンバーは、省エネルギーセンターの他に、大阪大学、東京工業大学、東京大学の3大学と、メーカー8社です。メーカーは、「工場」、「ビル」、「家庭」の3つのワーキンググループに分かれて参加していただきました。工場向けが日立製作所、東芝、三菱電機、安川電機の4社で、ビル向けが三菱電機1社、家庭向けが松下電器産業、松下産業機器、日立製作所、日立ホーム&ライフソリューション、シャープの5社です。』

【開発を強力にバックアップした技術開発委員会】
Q: 学識経験者もこの開発に参加されたのですか?
『いまご説明した受託研究機関の他に“技術開発委員会”を設置しました。委員会のメンバーは、大阪大学の辻教授、東京工業大学の赤木教授、東京大学の新助教授と、エコーネットコンソーシアム、四国電力OpenPLANETに入っていただきました。
大阪大学の辻先生はエネルギーシステム、東京工業大学の赤木先生はパワーエレクトロニクス、東京大学の新先生は情報制御技術がご専門です。先生方には、開発のヒントや重要な方向性を決定するご意見など、大変示唆に富むご意見・ご提案をいただきました。
エコーネットコンソーシアムは、その名のとおり、エコーネットの標準化に取り組んでいる企業のコンソーシアムです。エコーネットとは、電灯線、無線、赤外線等を用いて家庭内の白物家電や住宅設備機器を制御するためのホームネットワーク規格です。先程申し上げたとおり、特定のメーカーに限定されずに、さまざまな機器をネットワークで繋げることを将来的に想定しているため、業界標準を目指すエコーネットとの連動や協調には、大変意義がありました。
四国電力OpenPLANETは、インターネットを経由して家庭の電力使用量を遠隔検針したり、色々な生活情報も提供できる、次世代型双方向遠隔監視・制御システムで、四国電力が開発したものです。OpenPLANETの省エネへの応用は、“消費者や使用者が意識しないで省エネを実現できる”をコンセプトとしており、1つのモデルとして非常に注目されています。そのため、本研究にも大変参考となりました。』


【省エネ目標数値と具体的な成果】
Q: 機器をネットワークで監視制御することにより、具体的にはどのような成果があったのですか?

『開発当初に、具体的な省エネの目標数値を工場、ビル、家庭のそれぞれで設定しました。具体的には、工場は8%、ビルは14%、家庭は20%を省エネの目標数値としました。この数字は、省エネルギーセンターがこれまでに実施したビルや工場などの「省エネルギー診断サービス」の調査結果のレポートに、工場、ビル、家庭ごとに達成可能な省エネの平均値がありましたので、その数値をもとにした目標値となっています。例えば、工場は当時、平均7.4%でしたので、目標数値を8%としたのです。
この省エネの目標数値をクリアするために、「ネットワークで結ばれた機器全体の最適な制御によるトータル省エネシステムの開発」、「通信インターフェイス組込型省エネ機器の開発」、「通信ネットワークを用いた監視・計測・制御の標準的な手順、データ形式等の取り決め」の3つをテーマに、さまざまな研究・開発を行いました。
具体的には、「ネットワーク省エネ対応分散コントローラ、1チップ通信LSI」、「マトリックスコンバータ」、「ビル用小型超分散サーバ」、「省エネ制御アダプタ」をはじめとした、さまざまな機器や技術を開発しました。そして、工場、ビル、家庭のそれぞれの省エネ目標数値を、すべて達成するという成果を上げました。
また、特許は、海外6件、国内18件の合せて24件を取得しました。これも本研究・開発の大きな成果です。
このように、省エネ目標数値を達成するとともに、さまざまな機器や技術を開発でき、おかげさまで、プロジェクトは成功したといえると思います。これは参加した複数のメーカーの意見ですが、このようにうまくいった背景には、やはり、企業単体ではなく、国が中心にあったことが大きな要素だったといえるでしょう。国が支援した研究・開発ということで、これらの研究・開発が業界の標準へと繋がっていく可能性には、高いものがあると確信しています。』


【求められる省エネ効果の有用性のアピール】
Q: 課題としては、何が挙げられますか?
『メーカー側として、省エネ機器の開発は、コストアップに繋がりますので、本来は1企業だけでは手が出しにくいのが現状です。これは、省エネだけでは経済的に合わないためです。なぜなら、機器を省エネ対応にすることで、そのための開発コストが掛かってしまい、価格も当然高くなりますが、消費者にその分の価格差をなかなか受け入れていただけないためです。
今回の研究・開発は、国のプロジェクトだったので、メーカー側としては取り組みやすかったのですが、今回の成果を機器に組み込めば、当然コストが掛かりますので、価格が多少なりとも高くなってしまいます。また、単体で販売すれば、消費者からすれば、その分は新たな出費となります。
従って、価格が上がった機器やシステムや省エネ制御機器のメリットを購買層に理解していただけるかどうかということが、最大の課題だと考えています。
その課題の解消のためには、今回の成果を取り入れた機器やシステムの有用性や効果をキチンとアピールすることが重要だと思います。例えば、モニター事業を展開するなど、効果をアピールし、PRしていければと考えています。』


【エネルギーマネジメントが拓く、省エネの明るい未来】
Q: 今回の成果を、今後どのように発展させていきたいとお考えですか?
『これらの研究・開発の成果を業界の標準へと繋げていきたいと考えてます。そのための1つの方向性として、NEDOが2001年度から行っている「HEMS・BEMS導入事業」に、今回の成果を繋げていくことを検討しています。
HEMSとは、Home Energy Management Systemの略で、複数の機器を自動制御し、省エネルギーを促進させる、家庭用ホームエネルギーマネジメントシステムのことです。BEMSは、Building Energy Management Systemの略で、業務用ビルなどにおいて、室内環境・エネルギー使用状況を把握するとともに、室内環境に応じた機器または設備等の運転管理によってエネルギー消費量の削減を図る、業務用ビルエネルギーマネジメントシステムのことです。
このHEMS・BEMS導入事業では、2010年を目処とした省エネ目標数値を設定しています。HEMS・BEMSの導入が目標どおり実現されると、その省エネ効果は、年間250万klと推測されています。
ぜひ、この目標の実現に寄与できるよう、今回の研究・開発の成果を発展させていきたいと思っております。』

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