■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第4回「建設業における電子商取引」
(株)コンストラクション・イーシー・ドットコム
代表取締役常務

石黒義昭 氏
(株)コンストラクション・イーシー・ドットコム
第一事業開発部
シニア プロジェクト マネージャ
松本順 氏
「設備設計/管理 最新ITレポート」の第4回は、「建設業における電子商取引」をテーマに、(株)コンストラクション・イーシー・ドットコム代表取締役常務の石黒義昭氏と第一事業開発部シニア プロジェクト マネージャの松本順氏にお話を伺った。
(株)コンストラクション・イーシー・ドットコムは、建設業における電子商取引のオープンな業界標準の構築を目指し、(株)NTTデータ、鹿島建設(株)、清水建設(株)、大成建設(株)、(株)大林組、(株)竹中工務店、日本オラクル(株)の7社により昨年8月に設立された。同社は、建設業の電子商取引を行うマーケットプレイスの中心的存在となると目され、業界内外から大きな注目を集めている。
今回のインタビューでは、同社の建設マーケットプレイスについての概略と現状、ゼネコン・サブコン・サプライヤなどの実際の反応、実施するにあたっての課題、今後の予定などについてお伺いした。
インタビューを通して、建設業界における電子調達、電子商取引のこれからの方向性が見えてきた。
建設業における電子商取引
1.建設マーケットプレイス設立の経緯
2.電子商取引の2つの方向性
3.建設マーケットプレイスの仕組み
4.当面の目標
5.バイヤとサプライヤの反応
6.課題について
7.今後の予定と展望について


【建設マーケットプレイス設立の経緯】
Q: まず、建設マーケットプレイスを設立された理由についてお伺いできますか?
『一言で言えば、時代の必然だと言えると思います。
インターネットを利用した電子商取引は、これまで企業対消費者間というBtoCで発展してきましたが、ここ1〜2年の間に、企業間、いわゆるBtoBでの取引が注目を集め、これから一気に拡大しようとしています。建設業は、年間70兆円という巨大マーケットですから、このマーケットを狙って、大手ゼネコンに対しIT関連企業が総力戦でさまざまな提案をしてきました。そのような状況の中で、大手ゼネコン5社は、1社単独では電子商取引の実現が難しいと判断しました。その判断を踏まえ、IT関連企業の提案の中で最も良い提案をしたNTTデータの提案を採用し、米国の自動車業界が大連合を構築した戦略と同様に、(株)NTTデータ、鹿島建設(株)、清水建設(株)、大成建設(株)、(株)大林組、(株)竹中工務店、日本オラクル(株)の7社による共同で建設マーケットプレイスを設立することになったのです。
大きな目的は、IT企業とゼネコンが共同して建設業における電子商取引のオープンな業界標準となる建設マーケットプレイスを構築し、IT時代へのハンドルとアクセルを確保することです。そして、いまだに見えてこないIT時代における建設業のビジョンを明確にし、その絵を描くために取り組む必要があったのです。』

【電子商取引の2つの方向性】
Q: 他産業では1社単独で電子調達を始めるケースが多いのですが、建設業は業界として標準を作らなければならないということですか?
『例えば、流通業界を例にとると、コンビニは大手3社がそれぞれ単独で電子調達を行っています。それでうまく実現できています。ですから、1社単独で電子調達をするのと、業界標準を作って電子調達を行うことのどちらがベストかについては、現段階ではわかりません。
電子商取引先進国の米国の例を見ても、さまざまな成功例とさまざま失敗例があります。その成功例には、共通項といえるものがあるわけではありません。従って、建設業にとって、何がベストの選択かは、現状ではわかりません。そのような状況の中で、ただ待っているわけには行きませんから、実際に始めてみて、何がベストの方法なのかを探ることが重要だと思います。やってみて、時間を経て、はじめて答えが見えてくると思います。
建設業でも大成建設さんが1社単独で電子調達を始めています。しかし、大成建設さんはコンストラクション・イーシー・ドットコムにも参加しています。それは、現段階では何がベストの選択かの結論は出せないからです。
建設業は、IT時代における具体的なビジョンがまだ見えておりません。しかし、電子化が大きなテコになるということだけは、みんなが認識しています。従って、先程お話したように、実際に電子商取引を始めてみて、IT時代における確かな方向性を探ることが重要だと思います。』

【建設マーケットプレイスの仕組み】
Q: 建設マーケットプレイスの仕組みをご説明頂けますか?
『建設マーケットプレイスは、インターネットを利用した建設資材の電子商取引市場で、買い手企業(バイヤ)と売り手企業(サプライヤ)が建設資材をオープンに調達、販売できる市場です。
建設現場で使用される仮設資機材や建設機械、本設資機材等の調達にあたって、バイヤとサプライヤがやり取りする、見積依頼/回答、品目選定、取引先選定、受発注などの一連の業務をシステム的にサポートすることを基本サービスとして提供しています。これにより、調達業務、販売業務の効率化、コスト削減の効果が期待できます。
さらに今後の拡張サービスとして、与信・決済サービス、物流サービス、建設業務をサポートするASP(アプリケーション・サービス ・プロバイダ)サービスなどの提供を予定しております。
これらサービスの利用にあたっては、利用者の所在を特定し、継続的な取引を前提とすることから、事前に会員として登録して頂く必要がありますので、建設マーケットプレイスは会員制となっています。
サービスの料金体系は、入会金、年会費及び従量制料金から構成されます。従量制料金は成立した取引の成約金額に比例した成約手数料となります。
サービスは、昨年12月20日から開始しております。12月20日から開始したサービスは、当初から準備を進めてきた仮設資機材・建設機械の調達・レンタル・リース業務に関する基本サービスです。仮設資機材の製品数は、約12,000点となっています。
そして、本年4月からは本設資機材等の調達業務に関する基本サービスを開始する予定です。』
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【当面の目標】
Q: 建設マーケットプレイスの当面の目標をお伺いできますか?
『目標としては何段階かありますが、まず、12月20日からサービスを開始しました仮設資機材・建設機械の調達・レンタル・リース業務を軌道に乗せることが挙げられます。仮設資機材は、取引全体からみると約5%ですから、その後の本年4月から開始する本設資機材等の調達業務にうまくつなげていきたいと思っています。
また、もっともっと使いやすく、やりやすくしていくことで、バイヤさん及びサプライヤさんが、いままで限られた範囲で取引していたものを系列などを超えた取引ができるようにして、総合的な建設業界の構造改革を起したいと思っています。業界がもっとスリムに筋肉質になるためのツールとして使って頂けるようになりたいですね。
建設マーケットプレイスでは、建設現場で必要とされる新製品・新技術情報や、気象情報、地図情報などの情報も提供しますので、建設業務で日常的に活用される「建設ポータルサイト」を目指しています。つまり、建設業のインフラとして皆さんに使って頂けるようにしていきたいと考えております。その結果、建設マーケットプレイスでの取引が増えるということにつなげたいと思います。』

【バイヤとサプライヤの反応】
Q: バイヤとサプライヤの反応はいかがですか?
『反応としては、バイヤさん、サプライヤさんともに、考えられるあらゆる意見が出ているといえるでしょう。例えば、こんなことを進めたら各社で叩き合うだけで良くないという意見や、これを機会に社内システムの整備を行って新しい取引先を開拓したいという意見、これをトリガーに社内改革と一緒にやっていきたいという意見など、さまざまです。また、しばらく様子を見るという考えの会社さんもあります。大きく分類すると、「革新的な企業」、「追随的企業」、「何もしない企業」の3つに分かれていると言えます。それだけ反応が一致していないというのが現状です。建設マーケットプレイスがこれからの時代、IT時代に合っているということは皆さんに認めて頂いてまして、「取り組みはいいことですよ」といって頂いております。しかし、取り組みがいいことは認めても、すぐに参加するかということについては、会社によってさまざまです。この姿勢のばらつきは、会社規模に関係ありません。
それから、バイヤ、サプライヤではありませんが、海外のマーケットプレイスサービス会社からも反応があります。提携や相互乗り入れなどに関するお話が、米国、香港、シンガポール、オーストラリアなどから来ています。当面は具体的な形にはしませんが、将来は海外との連係なども行っていきたいと考えています。』

【課題について】
Q: 建設業における電子商取引を進めるにあたっての課題を挙げて頂けますか?
『現状では全く問題がありませんが、将来的な課題として、1つの例をお話します。
建設資材の価格には、製品とサービスが一緒に入っています。サービスは製品価格に入っているということで認識されている場合がほとんどです。建設業界では、現状ではこれで全体としてのバランスが取れていて、うまくいっているので、これを変えることは難しいのですが、製品価格とサービス価格を分解できるかは、電子商取引を進めるにあたっての将来的な1つの課題だと思っています。
そのためには、サービス部分を価格につなげる必要があると思います。技術サービスの部分をオープンにして、分解化するということです。
アウトソーシングという時代の流れで、社内と社外の使い分けがもっと活性化するというサービス面からの流れからサービス部分の価格が明確になる可能性はあります。また、輸入建材の利用が多くなると、輸入建材の単価が明らかなので、そこにサービス部分の価格は含まれてませんから、これもサービス部分の価格を明らかにすることになると思います。
ただし、先程申し上げましたとおり、建設マーケットプレイスは、現状の製品とサービスが一緒に入った建設資材の価格での取引で全く問題はありません。』

【今後の予定と展望について】
Q: 建設マーケットプレイスの今後の予定と展望について、お伺いできますか?
『建設マーケットプレイスは、仮設資機材の調達からスタートしましたが、本年の4月から本設資機材の調達を順次開始し、請求書の発行をはじめとする受発注などの一連の業務をシステム的にサポートするとともに、決済などの拡張サービスを行う、トータルなサービスを確立していきたいと思います。予定しているサービスには、さまざまなものがありますが、サービスの内容と順序を、タイミングを合わせて出していこうと考えています。
これからの半年、1年は、どんどん新しいサービスを出して行って、建設業界の方々への魅力を高めて参ります。
その中で、バイヤ、サプライヤの会員をどんどん増やしていきたいと思います。
建設マーケットプレイスは、ある規模になれば、すごく効果が出ると思いますので、早く効果が出る規模にしたいと思います。これはここ数ヶ月間の私どもの責務だと思っています。
私どもの目標は、建設業界のインフラとなることです。それも業界に合ったインフラを業界の反応を見て構築していきたいと考えています。従って、私どもが今後出していくさまざまなサービスの中に、もし業界に合わないものがあったならば、そのサービスについては変更または中止してもいいのではないかと柔らかく考えています。とはいえ、私どもでは、「業界標準としてのアウトプット」を先駆的に打ち出して参ります。打ち出したアウトプットが、業界のデファクトスタンダードとなるように、上手に舵をとって行きたいと思います。』

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