■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第7回「ASPによるプロパティマネジメント」
プロパティデータバンク(株)
代表取締役社長
板谷 敏正 氏
「設備設計/管理最新ITレボート」の第7回は、「ASPによるプロパティマネジメント」をテーマに、プロパティデータバンク(株)代表取締役社長の板谷敏正氏にお話を伺った。
同社では、建物・土地のオーナーや管理会社が、日々の不動産運用や管理業務上で活用できる業務支援ツールのインターネットを通じたASPサービスを行っている。同社は、咋年10月に清水建設(株)が設立した社内ベンチャー適用第一号の会社で、同社若手エンジニアで自ら起案および出資した板谷氏と高橋氏が、新会社の社長と副社長として経営にあたっている。建設業に関連した新しいビジネスモデルとして、業界の注目を集める企業でもある。
今回のインタビューでは、同社のASPサービスの概略やこれまでの経緯、今後の予定や展望などについてお伺いした。
インタビューを通して、IT時代に建設業が果たすべき役割の一端が見えてきた。
ASPによるプロパティマネジメント
1.ASPサービスの概略について
2.優先的な項目から始める不動産運用・管理
3.ソフトウェアの提供に徹する
4.会社設立の経緯
5.現状とクライアントの反応
6.利用コストについて
7.目標と新しいビジネスモデルについて


【ASPサービスの概略について】
Q: まず、御社のASPサービスである「@property」の概略についてお伺いできますか?

『「@property(アットプロパティ)」は、建物・土地のオーナーや管理会社が、日々の不動産運用や管理業務上で活用できる業務支援ツールを、インターネットを通じて提供するASPサービスです。各不動産の資産評価、正確な運用・管理コスト、各建物の運用状況など、最新の資産情報に基づいた戦略的な運用を可能にするものです。
インターネットに接続できる環境なら、初期投資やイニシャルコストの負担がなく、必要な時に必要なだけ機能を利用することができます。また、複数の不動産の運用管理情報をネットで集約することも可能です。
一言で言えぱ、“Webでローコストに不動産運用・管理を支援する画期的なサービス”です。
システム機能としては、次の4つの不動産運用・管理ツールをインターネット上で提供しています。

「1.基本情報パッケージ」では、不動産の所在地、面積、地目、構造、価格、工事・診断履歴、図面などの資産関連書類、基本的な不動産情報約500項目を管理できます。
@property資産基本情報
〜「建物台帳」画面
@property資産基本情報
〜「電子書庫」画面

「2.プロパティマネジメントパッケージ」では、不動産の面積、テナント、予算及び収支実績、租税、地震や火災のリスクなど、プロパティマネジメントに必要な各種情報約500項目を管理できます。
@propertyプロパティマネジメント
〜「予算・収支管理」画面
@propertyプロパティマネジメント
〜「LCCグラフ」

「3.ビルマネジメントパッケージ」では、日常保守業務、設傭機器建材台帳、クレーム、エネルギー消費量など、ビルマネジメントに必要な各種情報約1000項目を管理できます。
@propertyビルマネジメント
〜「メンテナンス履歴」画面

「4.ポートフォリオ総合分析(複数物件情報集約)パッケージ」では、前述の3つのツールで収集・集約したデータに基づいて、複数不動産の運用・管理情報及び資産戦略立案に必要な情報を抽出・分析できます。』
@propertyポートフォリオ(複数資産の統合管理)
〜「総合収支管理」画面


【優先的な項目から始める不動産運用・管理】
Q: 複数の建物・土地を持つオーナーや管理会社が、いきなり4つのパッケージでできるすべての不動産運用・管理を行うのは大変だと思いますが、部分的に始められるのですか?
『もちろん、部分的にも始められます。例えぱ、ビルのエネルギー管理だけを行うケースや、ビルのテナントのクレーム管理だけをするケースなど、お客様が優先したい項目から始められています。
また、一部の資産から試験的に利用することも可能です。
それから、運用・管理を始めるにあたり、ほとんどの場合、初期データ入力が必要となりますが、この辺りについても、当社では敷居を低くしています。初期データ入力は、当社でも代行しておりますが、お客様がご自身でしてもいいですし、複数の企業が協力することも可能です。』

【ソフトウェアの提供に徹する】
Q: ASPサービスによる不動産運用・管理のための業務支援ツールの提供以外に、プロパティマネジメントや省エネなどのコンサルティングも行っているのですか?
『当社では、プロパティマネジメントや省エネコンサルなどのマネジメント業務は行っておりません。必要に応じてグループ企業やその分野の専門の企業と連携することにより、お客様のソリューションに対応していきたいと考えています。従って弊社としては、不動産運用・管理のための業務支援ツールのASP事業並びにシステム・インテグレーション業務に専門特化していきたいと考えています。結果として便利なツールを安く提供し、オーナーやプロパティマネージャー、あるいはアセットマネージャーを支援していきたいと考えています。
ですから、さまざまな企業に当社のASPサービスをご利用頂けることが、大きな特徴です。
当社は、昨年4月から清水建設が開始した社内ベンチャー制度の適用第一号の会社で、清水建設(株)とケンコーポレーション(株)、中央三井アセットマネジメント(株)、みずほベンチャーファンド、日本ヒューレット・パッカード(株)の5社で昨年の10月1日に設立した会社です。得意なパートを5杜で補完し合って事業展開をしています。
清水建設が開始した社内ベンチャー制度は、“グループ全体でソリューションを提供する”がコンセプトになっています。従って、当然のことですが、各社には単独での採算性が求められています。
また、資産運用管理に関する情報管理のアウトソーシングを受託するわけですから、弊社においては、機密保持を含むデータやそのセキュリティの管理は最も重要な責務でもあります。また、運営上も技術的にもこの点には最善を尽くしています。そういった観点からも、複数企業の出資のもとで設立された中立的な事業母体が事業遂行上は不可欠でもありました。』

【会社設立の経緯】
Q: 不動産運用・管理のASP事業を始めようと思われた経緯をお話頂けますか?

『以前より建物や土地に関するデータ管理をITで進めていくベストの方法を模索していました。特に建物の性能をエンジニアリングしたいと考えていました。
また、清水建設では約10年前よりビルディングオートメーションに関するシステムを複数開発し、運用するなど、ビル管理や不動産運用・管理に関するさまざまな技術を持っています。それらの技術をうまく活用し、かつ清水建設にはないソフト面に関するノウハウやサービスを組み合わせた事業を展開したいと考えて、プロパティデータバンク(株)を設立しました。
土地神話の時代には、不動産は持っていれば価値が上がっていきました。建物は、その性能より仕様が重視されていました。しかし、土地神話の崩壊により、建物の資産価値が実質の価値、つまりその建物が事業性からどれだけの価値があるかで評価されるようになってきています。つまり、建物の仕様より性能が間われるようになってきたのです。
また、不動産の証券化という時代の流れもあって、不動産運用・管理支援をローコストに行うためのサービスが求められているという二一ズを背景に、不動産運用・支援のASP事業を始めたのです。
ASPの利用については、以前より考えていたわけではなく、この事業化を考える中で、時代の変化やITの進展の中から出てきたASPを利用する方法がベストと判断し、取り入れたものです。』


【現状とクライアントの反応】
Q: 現状とクライアントの反応について伺えますか?
『咋年の10月に会社を設立し、プロパティインターネットデータセンターを構築しました。その後咋年12月に一部サービスを開始し、本年3月より、全サービスの提供を開始しました。
これまでに100社以上の商談があり、まだ継続中のものが多数ありますが、その中の約2割が契約されています。これは当初の予想を超える数の引き合いで、スタートとしては大変順調な滑り出しとなりました。
引き合いはもちろん、オーナーと管理会社の両方からあります。オーナーの中に、自社の部署であっても、自社のビルに入っている場合、1テナントと見なしてさまざまな数値を出すオーナーが増えてきました。経営価値観が大きく変わってきているのです。
また、ビル管理会社は、咋今は大変競争が激しくなってきており、アットプロパティを営業ツールとして活用し、競争に勝ち抜こうという会社さんも多数いらっしゃいます。
そして、アットプロパティのようなシステムを待っていたというオーナーや管理会社が非常に多いですね。』

【利用コストについて】
Q: 利用コストはどのようになっているのですか?
『ユーザー側の導入・開発・維持管理の手間とコストは不要です。掛かるのは初回契約時の手数料と利用料だけです。
利用料は、不動産1件あたり月額数千円から3万円程度です。先程ご説明しました「基本情報パッケージ」などの4つのパッケージのうち、「ポートフォリオ総合分析パッケージ」を除く3つのパッケージ毎に利用料が掛かります。なお、月額の利用料は物件の件数によって変わります。また、「ポートフォリオ総合分析パッケージ」は、他のパッケージのいづれかを利用した場合に利用できるもので、利用料は無料となります。
初回契約手数料は、1契約につき1万円となっています。
それから、アットプロパティは、お客様のご要望に合わせてカスタマイズすることが可能です。カスタマイズ費用の概算、納期については、個別の打合せが必要になりますが、カスタマイズは、「基本情報パッケージ」などの標準パッケージをべ一スとしているため、独自のシステム構築を実施する場合に比べて格段にコストダウンが図れ、開発期間の短縮ができます。』

【目標と新しいビジネスモデルについて】
Q: 最後に、今後の目標についてと、これからの時代に建築・建設に関連してどのようなビジネスモデルが生まれていくとお考えか伺えますか?

『先程お話しました、プロパティインターネットデータセンターは、1万棟分のデータが入る容量があるのですが、まずこれを一杯にすることが第一の目標です。そして、次のプロパティインターネットデータセンターを早く構築したいと考えています。
それから、これからの時代のビジネスモデルについてですが、建築・建設に携わる仕事をしている企業であれば、建築・建設に関連して求められるサービスを異業種と組んで新しいビジネスとして展開していくことが求められていると思います。
時代やお客さまの二一ズに応えた製品やサービスであることはもちろんですが、自社のいままでに蓄積したノウハウと自社にはないノウハウを組み合わせて、“建築・建設に関わるソリューションを提供する”ことが重要だと思います。』

プロパティ データバンク株式会社のURL
http://www.propertydbk.com/

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