//// 建築設備業界向けIT関連Webサイト - 設備設計ひろば [ ひろばヘッドライン/特集 ] ////

特集「IT時代の建築設備設計/管理のゆくえ」

第13回
『環境・設備設計の領域と広がる今後の可能性』

佐藤信孝氏

(株)日本設計
環境・設備設計群　副群長

ITによる設備設計の変化
実施設計レベルでの3次元CADの活用
「環境」、「エネルギー」、「情報」が重要なキーワード
ニーズの高い、環境配慮の指針づくり
「エネルギー」、「情報」をキーワードとした運用管理
「環境・設備設計者」という職能

第13回は、(株)日本設計　環境・設備設計群　副群長の佐藤信孝氏にお話を伺った。
佐藤氏は、日本第2位の大手建築設計事務所である(株)日本設計の環境・設備設計群の中心的存在で、社団法人建築設備綜合協会の理事などの要職に携わる、建築設備業界のキーマンの一人である。
今回のインタビューでは、ITによる設備設計の変化や、環境問題への取り組み、そして、これからの時代における設備設計者の役割や求められる視点など、示唆に富むお話を聞くことができた。

【 ITによる設備設計の変化】

Q: ITの普及により、設備設計はどのように変わってきていますか？

『ITの普及によって、場所と時間を選ばずに情報のやり取りができる環境になりつつあります。例えば、社内の打合せは、予定が合わない場合には、顔を合わせずにEメールのやり取りで打合せを済ませています。Eメールは、どこにいても送れますし、見たいときに見ることができますので、設計者のワークスタイルを大きく変えつつあります。また、日本設計のオフィスは、現在は自分の席が決まっておりますが、フリーアドレスを試験的に導入しようと検討を始めたところですし、IT化はワークスペースにも大きな変化をもたらしつつあります。私どもは、オフィス設計を主業務としていますので、ITによって変化する新たな業務環境に対し、機能や室内環境の側面から様々な先進的な提案をしておりますし、また自らもITを中心にさまざまなチャレンジを実践して行こうと考えています。
ITによって、ペーパーレス化も進んできています。私どものクライアントでIT関連の企業さんがいらっしゃいますが、その建築主との会議は、参加者全員がノートPCを持ち込み、紙は一切使用せず打合せを行っています。打合せ議事録も後日作成するのではなく、その場で作成していますので、大変効率的な打合せを実践しています。
それから、ITによって情報のやり取りが容易になり、情報の共有化が進んだことも設計者にとって大きな変化です。さまざまなプロジェクトで作成された提案資料や技術検討資料は、データサーバーに保存し、これらのデータを企画・設計段階など、さまざまな場面で活用することで、設計の質の向上や業務の効率化が図れ、大きな効果を上げています。』

【実施設計レベルでの3次元CADの活用】

Q: CADの活用についても、大きな変化が出てきていますか？

『図面については、すべての図面を2次元ベースでCAD化しておりますが、新しい試みとして、この4月から、一部3次元CADを導入していこうとしています。設計の主体は2次元ベースですが、今回導入のCADは、実施設計段階において2.5次元的に利用するもので、CADデータには、属性がインプットされていますので、その属性から積算や数量拾いなどが容易に行えるため、効率を非常に高めることが期待できます。』

【「環境」、「エネルギー」、「情報」が重要なキーワード】

Q: 設備設計の領域から、注目すべき分野は何ですか？

『「環境」、「エネルギー」、「情報」の3つの分野が重要です。この3つは、現在進行形の重要なキーワードで、私どもでは例えば、エネルギーに関しては早くから広域での効率的なエネルギー利用のあり方としての地域冷暖房の設計に取り組んできました。また単体ビルでは、自然エネルギーの利用を実践するなど、それぞれの分野において、さまざまな取り組みを行っています。
この3つの分野の中でも最近特に注目し、領域が拡大しているのが「環境」です。「環境」の中でも最近ニーズが高まっているのは、生産活動や建築活動が環境に及ぼす影響の度合いを測るための評価手法の開発です。自治体やデベロッパーなどから、建築物の環境配慮に関する指針策定の相談や建築物が環境に与える負荷の大きさを測る評価尺度を作成してほしいという依頼が出てきています。
中でも、東京都は、全国に先駆けて2002年6月より「建築物環境配慮制度」を施行しましたが、私どもは東京都から依頼され、この建築物環境配慮制度の指針とマニュアルづくりのお手伝いをさせていただきました。
この制度は、延床面積が1万㎡を超える建築物を新築・増築するすべての建築主に、建築確認申請または計画通知を行う30日前までに「建築物環境計画書」の提出を義務付ける制度です。提出された「建築物環境計画書」は、東京都のホームページ上に公開されます。環境配慮の対象範囲は、「エネルギー使用の合理化」、「資源の適正利用」、「自然環境の保全」の3つの領域で、それぞれに配慮のレベルを3段階で評価するシステムとしています。
この制度は、規制ではありません。大規模な建築物の新築・増築をする建築主に、その建築物に起因する環境負荷の低減を求めていくものです。つまり、環境配慮の努力をしているかどうかを評価するものです。なぜ規制ではないのかというと、環境問題の本質は、義務化によって解決するものではないからです。義務的に対応するのでは、環境問題の根本的な解決にはなりません。環境問題を解決して行くためには、環境に対する意識を高めることが重要なのです。従って、この制度は、建築主の自主的な取り組みを促そうとする点が特徴となっています。』

【ニーズの高い、環境配慮の指針づくり】

Q: この建築物環境配慮の指針づくりに携わったことで、他の自治体などからの依頼が増えているのではないですか？

『そうですね。建築物の環境配慮に係わる評価手法づくりということでは、あるデベロッパーから依頼をいただいております。同社独自の評価軸と達成レベルの目標をつくってほしいという依頼です。また、ある自治体からは、建築物の環境配慮の指針ではなく、まちづくりにおける環境配慮の指針づくりの相談などもあります。環境問題は基本的に地域の問題であり、一律に議論できない部分があります。東京都では、民生用エネルギー消費の割合が高いこと、また廃棄物の埋立地が限界状態であること、そしてヒートアイランド問題と大都市特有の課題を解決するための政策展開から始まっています。従って評価軸もこの課題を解決するための視点から決まります。ある自治体では、県内の主軸産業の資源循環を促進するため指針づくりであったり、またある自治体では、集落の排水による水質汚濁を解決するための技術提案であったりします。建築物環境配慮の指針は対象が建築物ですが、環境の領域は、地域から都市づくりまで拡大してきています。私どもは、東京都の建築物環境配慮制度づくりの経験を元に、さまざまな環境に関わる問題解決に取り組んでいるところです。
一般に官庁建物や本社ビル建設などの場合、環境配慮についての提案は、採用され易いのですが、環境対策はコストが掛かりますので、先進的なデベロッパーの場合を除いて、テナントビルなどは、なかなか採用が難しいのが実態です。従って、環境配慮制度の広がりなどによって、環境が価値を生む時代をできるだけ早く実現する必要があると思っています。』

【「エネルギー」、「情報」をキーワードとした運用管理】

Q: 「環境」というキーワードが設備設計の領域を大きく広げているわけですね。その他の「エネルギー」、「情報」に関しては、どのように領域が広かっているのですか？

『「エネルギー」について1つ例を挙げれば、最近“コミッショニング”といわれている性能検証の仕事があります。いままでのところ、私どもが行っているのは自社で設計した、竣工後ある程度の年月が経過している物件に関する最適運用に関するコンサルティングです。実際に使用されているエネルギー消費量を分析して、本来の性能が発揮されているのか、更に効率的な運転をするにはどうすれば良いのかなどの運用上のコンサルティングをするとともに、運営費のコストダウンを図っています。
設計の意図どおり、設備機器が運転されているかどうかを竣工時と竣工1年後に検証するのは、設計監理業務の範疇ですが、その後の省エネルギー提案などの業務は、設計フィーでは補えない範疇ですので、エネルギーコンサルティングとして仕事を行っています。
もう1つのキーワードの「情報」に関しては、先程お話しましたような設計段階での活用だけではなく、竣工後の運用段階におけるビルディングマネジメントをサポートするシステムを提供しています。建物の長寿命化・維持管理費の低減・施設の再整備戦略などに関して、設計から施工・運用に関する情報を一元化したデータベースを構築して、最適運用に関わるソリューションを提供しております。また、ファシリティマネジメント(FM)の一環として、単体ビルだけでなく施設群を対象とした当社独自の管理システムも提供しております。世田谷区の所有する700余りの施設群を運営管理する情報システムを構築し、4年前から活用され、効果を発揮しています。』

【「環境・設備設計者」という職能】

Q: これからの設備設計者/技術者は、どのようなことを考えて設計や運用管理に取り組むべきだとお考えですか？

『「環境配慮」を意識した取り組みが重要です。そして、この「環境配慮」を考える際には、建築や製品の建設あるいは製造から運用・廃棄に至るライフサイクルでの評価が極めて重要です。その意味では、特に製造に関わる環境負荷の定量化に関して、建材などエコマテリアルなどは少しずつデータベースが整備されつつありますが、設備機器については、まだまだメーカーの取り組みが遅れています。設備機器メーカーの今後の対応が待たれるところです。
それから、設備設計者の領域は、これまでお話ししてきましたとおり、 “環境”、“エネルギー”、“情報”をキーワードに、今後ますます拡大していきます。私達の部門は、早くから「環境・設備設計群」という名称になっていますが、設備設計の領域は建築の枠を越え、“環境・設備設計”という職能に既になってきています。
従って、設備設計者は、建物の機能を提供する設備設計の領域だけでなく、広く、建物や街、地球などに関わる社会的ニーズに応える役割を認識していくべきでしょう。その視点は、自然環境への影響緩和や活用に関する視点、建物や街の最適運用に関わる視点、地域コミュニティや社会貢献という3つから、“環境”をキーワードとして発想していくことが、今後は非常に重要だといえるでしょう。』

All Copyrights reserved by DAIKIN INDUSTRIES,LTD 　　　