特集 「IT時代の建築設備設計/管理のゆくえ」 |
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第14回は、(株)フジタ ビジネス システム 最高顧問の山下純一氏にお話を伺った。
山下氏は、(株)フジタ ビジネス システムの前社長で、財団法人建設業振興基金 建設産業情報化推進センター C-CADEC運営委員長、CI-NET政策委員、IAI日本支部副会長、財団法人日本建設情報総合センター 建設情報標準化委員会委員などの要職に携わる、建設業界のIT化推進のキーマンである。
今回のインタビューでは、建設業界のIT化の現状と今後の方向性、そして、設備設計者がこれからの時代において注目しておくべき動向や、求められる意識改革など、示唆に富むお話を聞くことができた。
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【
特定の分野では意外に進んでいる建設業界のIT化 】 |
Q:
まず、IT化が遅れているといわれる建設業界ですが、そのIT化の現状について伺えますか? |
『建設業界と他業界とのIT化の比較という意味では、企業間商取引における電子データ交換(EDI)を例にとると、わかりやすいかもしれません。
建設業界では、「CI-NET」が企業間商取引における電子データ交換の標準規格になっています。CI-NETとは、Construction Industry NETworkの略で、標準化された方法でコンピュータネットワークを利用し建設生産に関わるさまざまな企業間の情報交換を実現し、建設産業全体の生産性向上を図ることを目的に、財団法人建設業振興基金の建設産業情報化推進センターが推進しているものです。わかりやすく言いますと、CI-NETとは、発注者と受注者が、見積依頼・回答、注文書・注文請書、出来高・請求などのやりとりを、ネットワーク上で容易に行えるようにする仕組みです。
CI-NETを利用するためには、企業はCI-NETに登録を行い、「企業識別コード」を取得する必要があります。この登録件数が、本年の6月現在で、2,500件を超えました。
現在、さまざまな業界でEDIの導入が活発化していますが、EDIは特定の業界内で行われるだけのものではなく、業界間での取引が拡大していますので、業界横断的な“企業識別コード”を使用することが不可欠となっています。そこで、財団法人日本情報処理開発協会 電子商取引推進センターが各業界で共通となるように企業識別コードの管理・運用を行っています。同センターが管理している標準企業コードの登録数は、約15,000件ですので、2,500件を超える登録数である建設業界は、実に全体の約1/6を占め、電子機械業界についで第2位となっています。建設業界のIT化は、意外と進んでいるのです。』
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【
バーチャル・コーポレーションゆえに難しい建設業界のIT化 】 |
Q:
建設業界の標準企業コードの登録数が電子機械業界についで第2位というのは、かなり意外ですね。このような現状にもかかわらず、なぜ建設業界はIT化が遅れているといわれているのでしょうか? |
『建設業界は、製造業と違って、自分でプロダクトをつくって世に出す、世に問うのではなく、プロジェクトがあっての世界です。そして、発注者、設計事務所、ゼネコン、サブコン、メーカーなどが、プロジェクトごとにいろいろな組み合わせでプロジェクトを遂行しています。言い換えれば、プロジェクトごとに1つのバーチャル・コーポレーションを形成しているのです。しかも、毎回のように違う企業の組み合わせです。この毎回のように違う企業の組み合わせによるバーチャル・コーポレーションを成り立たせるためには、“ルーズ・カップリング”である必要があったのです。ルーズなカップリングだから成り立ちますが、これがタイトなカップリングであれば、バーチャル・コーポレーションの形成は大変困難です。しかし、このタイトなカップリングが、本当の意味でのIT化には不可欠なのです。
例えば、IT化が進んでいる製造業の中でも、特に自動車業界は、タイトなサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)ができています。タイトなカップリングとなっているので、IT化が進み、その効果も高いのです。
従って、このタイトなカップリングが困難な点が、建設業界はIT化が遅れているといわれている大きな要因であり、建設業界のIT化が難しい原因となっています。
建設会社各社では、独自にIT化を進めています。各社で使用しているシステムが違っているため、システムの連携が難しいのが現状です。これを解決することが、タイトなカップリングの実現へと繋がります。そのためには、バーチャル・コーポレーションの標準システムが必要となります。建設業界のIT化を推進し、効率化を高めるために、バーチャル・コーポレーションの標準システムの確立が、いま待たれているのです。』
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【
注目すべき建設ITの動向 】 |
Q:
いま、建設関係者が注目しておくべきIT化の動向は何ですか? |
『今後大きな影響を与える、注目すべき動向を絞って挙げれば、CI-NET、CALS/ECの2つですね。また、CALS/ECに含まれるのですが、SXFの動向についても注目が必要です。
まず、CI-NETについてですが、その登録件数は、現在、2,500件を超えていますが、2001年2月末時点では506件に留まっていました。それが約2年で5倍もの登録件数になったのは、各社の経営陣が購買の効率化に目を向けたからです。
購買の効率化を図るためには、購買プロセスを変えなければなりません。そのためには、購買プロセスをIT化することが、もっとも有効な方法なのです。
CI-NETの概要は、先程お話したとおりですが、そのメリットは、企業間商取引における電子データ交換の他に、さまざまな書類の電子化が進むこと、自動的に書類の標準化が進むこと、購買部と業者間だけでなく全社的な電子化までの発展が図れることなどが挙げられます。
従って、業界の標準システムを利用した社内のIT化を推進することにも、CI-NETは大きな効果を発揮するのです。CI-NETは、これから設備会社、メーカー、サプライヤ間の電子商取引に力を入れていくところですので、建設業界の標準システムとして、今後ますます普及・発展していくと期待されています。
CALS/ECについては、その概要は皆さんよくご存知かと思いますが、CALS/ECは“建設業界の標準化された情報の道”をつくることに繋がっています。ここに大きな意味があります。そして、最大の発注者である国が推進していますので、各社はIT化対応せざるを得ないため、最も推進力がある動向だといえるでしょう。』
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【
設備設計者に大きな影響を与えるSXFの新バージョン 】 |
Q:
SXFについて、詳しく伺えますか? |
『SXFは、異なるCAD間でデータ交換を可能とするための中間ファイル形式で、CALS/ECにおける図面の電子納品において標準ファイル仕様として採用されているものです。
その開発は大きく分けて4段階のステップを経るもので、現状は第2段階のレベル2Ver.2という段階ですが、近々レベル2Ver.3へと進みます。レベル2Ver.3の段階では、CADデータの属性もやり取りできるようになります。細かい属性の渡し方は、それぞれの分野ごとに決定する方向で検討されていますが、設備分野は、すでにほとんどの設備CADが属性データを持っているので、設備設計者にとって、SXFがレベル2Ver.3の段階に移行することは、大きな影響があります。従って、今後のSXFの動向にも注目しておく必要があります。』
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【
建物全体のオペレーションが生みだす大きなビジネスチャンス 】 |
Q:
設備設計/管理は、今後どのように変化していくとお考えですか? |
『これからは、建物全体のエネルギー消費量を削減する必要性が高まり、建物全体のオペレーションが重要になってきます。今後、ライフサイクルコストは設備機器ごとなど個々に数値を取って見ていくようになり、ビルコントロールとセキュリティが重要視されていきます。この建物全体のオペレーションは、設備分野にとって、非常に大きなビジネスチャンスになるでしょう。
ビルと船は、いろいろな点で似ているところがありますが、移動する/しないという点以外で最も大きな違いは、船のコントロール室は非常にいい場所に設置されているのに対し、ビルの中央監視室はビルの片隅に追いやられている点です。しかし、これからのビルの中央監視室は、建物全体のオペレーションの重要性が高まることによって、大きく変わるでしょう。
そして、もちろん、ここでのITの活用は不可欠です。中でも特に“通信”の進展は、建物全体のオペレーションに大きな影響を与えますので、充分注目しておくべきです。』
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【
これからの設備設計者/技術者に求められる意識改革 】 |
Q:
これからの設備設計者/技術者は、どのようなことを考えて設計や運用管理に取り組むべきだとお考えですか? |
『建築生産プロセスの中では、設備はこれまで冷遇されてきたといえます。しかし、実力は確実に付けています。また、これからは建物全体のオペレーションが重要ですが、この建物全体のオペレーションの重要な部分は、設備が握っています。従って、設備設計者/技術者は、“ドンガラ”より“中身”が大事という考えをさらに強め、「自分たちが主役である」という、これまでとは違う意識を持つべきです。
すでに工場の設計/建設においては、設備が主役です。ビルにおいても、オフィスはドキュメントを生むための工場と考えれば、ITの活用が不可欠であり、データ連動とデータの一元管理を実現するシステムやオペレーションが重要です。従って、設備設計者/技術者は、オフィスビルにおいても設備が主役になれるよう、IT化のスキルやノウハウを高める努力をすることが必要です。
建設分野の中で、設備分野は“標準化”という意識が高い分野です。建設業界における標準システムの普及への貢献という意味でも、これからの設備設計者/技術者に期待しています。』
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