特集 「IT時代の建築設備設計/管理のゆくえ」 |
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第15回は、東京圏駅ビル開発(株) エキビル管理部 課長の中山秀雄氏にお話を伺った。
東京圏駅ビル開発は、JR品川イーストビルやJR恵比寿ビルなどの駅ビルの開発・管理・運営を行っている、JR東日本グループの不動産賃貸業及びショッピングセンターの管理・運営の会社である。
今回のインタビューでは、Suicaを初めて採用したビルセキュリティシステムについて伺うとともに、高まる設備とビル管理の重要性についてなど、示唆に富むお話を聞くことができた。
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【
JR東日本と共同で駅ビルを開発・管理・運営 】 |
Q:
御社は、JR東日本のグループ企業とのことですが、まず、御社の事業内容や保有されている施設について伺えますか? |
『当社は、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)の100%出資により1990年に設立された会社で、主な事業内容は、JR東日本との駅ビル共同開発、駅ビルの管理および運営、直営店の運営です。現在、複合型ビル(オフィス+ショッピングセンター)が4つ、オフィスビルが3つ、ショッピングセンターが4つ、合計11の施設を保有しております。(2004年3月現在)
複合型ビルは、今年の3月にオープンした「JR品川イーストビル」をはじめ、「JR東急目黒ビル」、「JR恵比寿ビル」、「JR信濃町ビル」の4棟です。オフィスビルは、「JR八丁堀ビル」、「JR大宮西口ビル」、「JR大宮西口ビルⅡ」の3棟です。
ショッピングセンターは、アトレという名称で、先程ご説明しました複合型ビル4棟の他に単独のショッピングセンターとして、「アトレ四谷」、「アトレ大井町」、「アトレ上野」、「アトレ新浦安」、の4棟があります。
これらの施設は、土地と外装と躯体はJR東日本が所有および管理を行い、内装と設備は当社の所有および管理となっております。また、ショッピングセンターの運営については、単なる大家業ではなく、当社が主体性を持って館を運営していくという「プロデュース型運営」を行っています。』
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【
Suicaを初めて採用したビルセキュリティシステム 】 |
Q:
最近竣工されたビルの中で、設備の新しい動向としては、どのようなことがありますか? |
『今年の3月にオープンした「JR品川イーストビル」で、ビルのセキュリティシステムとして、“Suica”を利用したビルの入退館管理を採用しました。
セキュリティカードに非接触型カードの導入を検討したなかでデーター処理の速いフェリカタイプ(SONY)のカードを考えておりましたが、今後の“Suica”の多面的な展開を考慮したうえで“Suica”カードを採用しました。
“Suica”は、ご存知のとおり、JR東日本の非接触型Suica定期券とSuicaイオカードのことで、ビルのセキュリティシステムとしてSuicaを採用したのはJR品川イーストビルが初めてのケースとなります。
具体的には、JR品川イーストビルのオフィスフロアおよび地下駐車場への入退館用のカードとして利用しています。
当ビルのオフィスエントランスから各階エレベータホールを経て共通廊下までアプローチしてきますが、オフィス専用部への出入りはSuicaがないと入室できません。なお、ショッピングセンターに接する3階と5階のオフィスへの出入口も同様です。
複数のテナントが入居するオフィスビルですので、Suicaの設定により該当するエリアにしか、出入り出来ないようになっています。
また、ショッピングセンター部分とは利用動線が交錯しないよう計画されているとともに、ショッピングセンター側は他のセキュリティシステムを採用し、完全なシステム分離をおこなっています。これにより質の高いビルセキュリティを確保しています。
オフィスのテナントでJRのSuica定期券かSuicaイオカードを持っている方は、自分のカード情報をビルのシステムに登録することで、同ビルの利用するフロアへの入退室ができるようになります。
複数のテナントが入居するオフィスビルとしては、現在考えられるベストのセキュリティだと思っています。』
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【
Suicaによる細かい制御と照明・空調・エレベータの連動停止 】 |
Q:
Suicaによるセキュリティシステムによって、その他にどのようなことができるのですか? |
『Suicaは、きめ細かい設定ができることが、大きな特徴となっています。例えば、特定の部屋に限定した人だけ入室できるようにするなど、エリアごと、人ごとの設定・指定が可能です。また、入退出だけでなく、フロアのエリアごとに照明・空調を停止することもできます。
空調はワンフロア14ゾーン毎に制御できます。また、ワンフロアのテナント最小区画は4ブロックに分けられます。
最後に退出する人は、退出時にSuicaを読み込ませ、警備切替ボタンを押すことによって、照明・空調を連動停止することができ、エレベータも利用した以降はフロアに止まらないようにできます。
それから、電気・空調・セキュリティなどの監視・制御・計測は、BACnetシステムを採用しておりますので、Suicaによるエリアごとの管理によって、エネルギー消費量およびエネルギーコストを設備ごとやエリアごとに細かくデータ管理することが可能です。
ビルのセキュリティシステムとしてSuicaを採用した初めての試みですので、実際に利用し、テナントさんから出てくるいろいろな要望をもとに、さまざまな使い方を検討していく中で、さらに新しい効果が見えてくると思っています。』
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【
最近のテナントのニーズ 】 |
Q:
最近のテナントからの設備やビルへのニーズは、どのようなことがありますか? |
『テナントのニーズは、設備へのニーズがほとんどです。電気容量、通信回線の速度、空調設備の内容が、ビルへの入居を検討される際に、最も重要視されています。もちろん、天井高等の執務空間や、窓から見える景観等も関心事ではありますが、入居を検討されているテナントとの最初の打ち合わせでは、設備のヒアリングを受けるケースが多くなっています。
テナントの電気使用量は、サーバー室への空調設備の増設などで増えているので、電気容量の増設のニーズは高いものがあります。通信回線については、光ファイバーを利用したいという要望も出てきていますね。空調設備については、エリア空調の要望が多いです。オフィススペース内にサーバー室を設置する場合、当然それぞれの設定温度を同じにはできませんから。また、24時間執務できるビル対応のニーズも強いものがあります。
これらの要望は、入居を検討されているテナントから主に出てくるものですが、私どもでは、どんな要望が出ても、できるだけ対応できる設備を導入しようと思っています。
テナントの要望に応えることが、ビルを運営管理するものの務めだと思いますので、要望が出た段階では極力対応するようにしています。
当社の管理するビルの中にも、竣工後10年以上経過してきているビルが増えてきましたので、今後の設備の更新は当社にとっては大変重要なことだと思っています。』
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【
JR品川イーストビルにおける環境配慮の取り組み 】 |
Q:
環境配慮と建築設備については、どのような取り組みをされていますか? |
『JR品川イーストビルを例にしますと、空調関係では、環境保全、大気汚染防止、二酸化炭素の排出削減など、環境への負荷軽減を図るため、品川インターシティの地域冷暖房(DHC)を導入しています。
衛生設備では、水資源の有効利用として、雨水の再利用、下水道局からの再生水の受け入れを実施しています。雨水は、植栽用の散水に再利用するもので、下水道局からの再生水は、トイレに使用しています。
機械設備では、ゴミ削減のために、生ゴミ処理機と、リサイクル用の発泡スチロール溶解機を設置しています。また、処理機の導入だけでなく、アトレ(ショッピングセンター)のテナントについては、テナントへの指導にも力を入れ、人的努力によってもゴミを減らしたいと思っています。』
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【
求められる設備のトータル・コーディネーター 】 |
Q:
これからの設備設計者/技術者は、どのようなことを考えて設計や運用管理に取り組むべきだとお考えですか? |
『新築ビルの場合、私どもも、その設計段階から一緒に参加しますが、設計の打ち合わせの時などにいつも感じることは、設備設計者・技術者は、電気・空調・衛生のそれぞれの分野で閉じた仕事をしているということです。例えば、電気の人は、電気のことはよくわかっていますが、他の空調や衛生については把握しようとする気持ちが薄い。設備全体、そして、ビル全体を見るという広い視点に欠けています。これからの設備技術者に求められるのは、「設備のトータル・コーディネーター」です。私は建築の出身ですが、建築設計の人の意見に引っ張られることなく、ビルの将来を考えた責任ある設備のトータル・コーディネーターが、いま求められていると思います。この設備のトータル・コーディネーターには、コスト意識や経営的感覚などのバランス感覚が必要で、また、ビル管理の知識と経験も必要です。ビル管理のクレームは、“設備がすべて”といっていいくらい、全体にとって設備の良し悪しはビル全体の評価を大きく左右するものがあります。ビル管理を行ってみて初めて不具合がわかるということでは遅いのです。従って、ビルの計画の第一段階から設備のトータル・コーディネーターが必要であると思います。
また、設備設計者・技術者は、ビルの竣工後、1年ぐらいはビル管理を行い、現状を知るべきです。ビル管理を行うことによって、設備設計者・技術者の責任がいかに重いかがわかると同時に、同じことを繰り返さなくなると思っています。ビル管理は、ビルの命を預かる仕事で、大変重要な仕事です。その責任の重さを充分に認識して、設備設計や運用管理に取り組んでいただきたいと思います。』
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