特集 「IT時代の建築設備設計/管理のゆくえ」
第3回
『本来のミッションの追求が創り出す、新しい設備工事業の姿』

光町正宣 氏
光町正宣 氏

日比谷総合設備(株)
常務取締役
技術センター所長

  1. ITによる設備工事/管理の変化
  2. 設備工事業のLCMサポート業への飛躍
  3. ITをベースとした社内改革の取り組み
  4. 顧客本位の責任を持ったライフサイクルサポートの必要性
  5. ISO9001の改正は顧客本位の改善
  6. リニューアル工事におけるクライアントの要求の変化
  7. 設備機器の修繕費・運用費予測
  8. 地球環境保全に寄与することが設備工事業の本来のミッション
第3回目は、日比谷総合設備(株)常務取締役 技術センター所長の光町正宣氏にお話を伺った。日比谷総合設備は、NTTをはじめとする情報通信施設の工事を数多く行っており、情報通信技術に強いサブコンである。
今回のインタビューでは、ITによる設備工事/管理の変化や、ITをベースとした社内改革の取り組み、設備のライフサイクルサポートなど、さまざまなお話を聞くことができた。
インタビューを通して、設備工事業の今後の方向性、そして、顧客と社会のための設備設計/管理の在り方が見えてきた。

【 ITによる設備工事/管理の変化 】
Q: ITによって、設備工事/管理の進め方は、実際にどのように変わってきていますか?
『ひとつの例を紹介しましょう。最近は、小さい工事、小さい現場が増えています。例えば、近接あるいは同一敷地内に小規模な工事場所が散在する改修工事などがその例です。既存の建物は利用されながら工事を進めるケースが多いので、高い安全性が要求されます。
しかし、現場が小さいとスペース的にもコスト的にも担当者の現場常駐が難しくなり、いままでの管理の仕方では、目が行き届かない面が多くなります。そこで、現場の職人にiモード携帯端末を持ってもらい、本社の情報サーバにアクセスすることにより、1箇所から指示や確認をすることを試行しています。本社デスクからの管理支援も可能です。具体的な成果としては、コストダウンばかりではなく、工事管理のプロセスをデジタルデータで残せるなどのメリットがあります。これは職人の安全意識の高揚を目的としたものですが、他の現場管理業務への適用領域の拡大が図れるものと期待しています。
これは、たくさんの小さな現場を効率的に、しかもキチンと管理する方法を考える中で出てきました。「デスクから現場をサポートする」という意識改革がコンセプトになっています。携帯端末の活用はそれを実現するためのツールです。
ITを有効活用するためには、まず意識改革が重要だと考えています。』

【 設備工事業のLCMサポート業への飛躍 】
Q: 設備工事/管理の進め方は、ITによって大きく変わってきているといえるのですか?
『設備工事業界の体質は保守的な面が多く、またコスト環境も厳しく、現状ではITによる大きな変化はまだ起きていないと言えるでしょう。これから大きく変わろうとしているというのが実情です。
スクラップ&ビルド時代の終焉、そして、地球環境問題の顕在化などを背景に、建設業もまさに構造改革の時を迎え、いままでの業態のままでは生き残ることさえ容易ではない時代になってきています。設備工事業も、いままでのように工事が終われば業務完了と言っていては、厳しい環境に取り残されてしまうのではないかと危惧しています。
個人的には、設備工事業は建築設備のライフサイクルサポート業に変身してゆく必要があるのではないかと考えています。
竣工後を建築設備のLCM(ライフサイクルマネジメント)をサポートする業務として位置付け、実践していくべきだと思います。
LCMサポート業とは、建物に常駐して運用・保守を行うメンテナンス業とは別に、運用情報をクライアントからもらって、それを戦略的に活用し、クライアントの立場で運転方法、修繕・改修などを提案し実施していく業務です。この業務では、情報化がキーワードになり、ITは有効なツールとなります。例えば、最近普及の兆しのあるオープンプロトコルBASは都市情報ネットワークとの連結が容易であり、リモートでのエネルギー情報、設備矢室内環境の状態情報の収集・伝達に有効なものと考えています。』

【 ITをベースとした社内改革の取り組み 】
Q: 具体的には、ITをキーにしてどのような新しい取り組みをされているのですか?
『当社は、幸いにNTTさん関連の仕事を比較的多く戴いており、情報通信施設の工事を実施する中で直接的または間接的にITに関わってきました。
その経験とノウハウを生かして、"IT環境構築をサポートする企業"をコンセプトとした業務推進プロジェクトをスタートしております。
開発、設計、工事、サービスに関わる技術、そして営業から竣工後に至る業務推進プロセスを洗い出し、これらの技術や業務を高めるためにどのようなIT技術が必要なのかを分析し目的別に体系化を行っています。
技術・業務の体系は、「顧客へ提供するIT」、「顧客のIT環境を構築する技術」、「業務遂行のためのIT」の3つの領域に大きく分類しました。
各技術・業務を高めるITは100以上にものぼりますが、そのうち当社の既存技術が約3割、現在構築中の技術が約3割、今後新たに構築する技術が約4割となっております。今後新たに構築する技術については順次開発、整備を進め、3年以内に完了する予定です。
「業務遂行のためのIT」でカバーするのは、技術情報管理や工事現場管理などの社内業務です。この中に含まれるインターネットによる資機材調達発注管理は来年度から運用開始する予定です。
「顧客へ提供するIT」と「顧客のIT環境を構築する技術」で行うのは、顧客へのサポート及びサービス技術です。
顧客に提供・サービスする技術におけるITの位置付けについてはほぼ掴みきっていますが、業務推進のためのITについては、業務自体の改革や情報リテラシーの獲得など開発・整備前に解決しなくてはならない課題を多く残しています。』

【 顧客本位の責任を持ったライフサイクルサポートの必要性 】
Q: ITをベースとした社内改革を図ることによって設備工事業からの脱却を図るということですか?
『先程申しましたように、個人的には、設備工事業は建築設備のライフサイクルサポート業の方向に向かうべきだと考えています。
これまでの設備工事業としての領域を確実に実行するとともに、LCMサポート業を新たな業務領域と位置付け、実践していくことだと思います。しかもクライアントの立場に立ったLCMサポートを実践するのです。つまり、クライアントの施設管理の支援部隊が社外にあるという位置付けで業務を行うというイメージです。
CALS/ECではLCでの情報共有化をうたっていますが、設計、監理、施工、運用という現状の業務領域分担を温存したままでは顧客満足という課題の解決には問題が残るように思います。企画・設計段階で運用時のことを充分検討していなければ、いくら高度な運用管理を実施しても高い効果は得られません。クライアントのメリット、つまり顧客本位で考えれば、責任を持ってライフサイクルサポートを行う会社が設備の決定をすべきだと思います。
そこで、最近、設計事務所さんにはもっと川上に目を向けていただいてはと申しあげています。設計事務所はクライアントの要望をプログラミングし業務を形作ることに力を注いで頂き、逆にサブコンは川下の領域に業務を広げて行くべきだと考えています。』

【 ISO9001の改正は顧客本位の改善 】
Q: クライアントの立場に立ったLCMというのは、まさにクライアントが求めていることですね。
『LCMサポート業は、日常の運用・保守業務を行うメンテナンス業と競合するものではありません。
クライアントの立場に立って、設備の効率性を高めることが目的です。従って、クライアントの要求に合わせたLCMサポートを実践することが重要なのです。
ISO9001がこの12月に改正されますが、そのポイントはC/S(顧客満足度)を上げることと、継続的業務改善の2つです。非常にいいところにポイントを置いていると思います。これは物作りは顧客本位の考え方に立ちなさいということです。この考え方は、まさに設備工事業の今後の方向性と合っているので、当社も強い追い風にしたいと思っています。』

【 リニューアル工事におけるクライアントの要求の変化 】
Q: リニューアル工事が最近増えていると思いますが、その比率はどれくらいですか? また、どのような要求が多いのですか?
『模様替や修繕を含めれば、件数では工事全体の9割以上を占めているのではないでしょうか。しかし、リニューアル工事は診断などによりクライアントの不満を吸い上げて、改善案を提案しコスト面を含めて顧客が満足するものに改善するということですから、単なる模様替や修繕などとは一線を画しています。
クライアントからの要求としては、イニシャルコストだけではなく、ランニングコストと今後の修繕費・運用費を出して欲しいという要求が増えてきています。
いままでは、イニシャルコスト一辺倒のクライアントがほとんどだったのですが、そういう意味ではライフサイクルサポートの提案も受け入れられやすい下地ができてきたと思います。』

【 設備機器の修繕費・運用費予測 】
Q: 設備機器の今後の修繕費・運用費の予測をどのように算出しているのですか?
『当社では、独自の設備機器の修繕データベースを持っています。このデータベースを元に今後の修繕費・運用費の予測を算出しています。
各設備機器メーカーでは修繕データを持っており、それを戴いてデータベースとしているのですが、メーカーのデータそのままの数値では今後の修繕費・運用費の予測はできません。メーカーとしての立場から、安全を見て設備機器の予防保全コストとなっているため機器のライフサイクルにおける修繕費・運用費がイニシャルコストの2~3倍になる場合もあります。実際の修繕・運用費は施設の種類とそれに応じた保守レベルにより異なります。
当社では、各メーカから戴いたデータに保守レベルに応じた変換を行って修繕・運用費を予測し顧客に提案することにしています。
ランニングコスト(光熱費)については、当社で「ランニングコスト算出システム」を持っていることもあり比較的予測しやすいのですが、修繕費・運用費については実際には簡単ではありません。』

【 地球環境保全に寄与することが設備工事業の本来のミッション 】
Q: 環境問題と建築設備について、どのようにお考えですか?
『私は、地球環境保全に寄与することが設備工事業の本来のミッションと考えております。
LCC(ライフサイクルコスト)の次は、LCA(ライフサイクルアセスメント)が指標になるでしょう。いきなりLCAといっても、クライアントに受け入れ難い面もありますから、まずLCCを浸透させることだと思います。LCCを理解してもらってから、LCAを行うということになるでしょう。
省エネルギー技術は、従来から設備技術の中心的キーワードでありましたが、これからは、設備の長寿命化がポイントになると思います。この場合の長寿命化とは、単に機器や機材の寿命を伸ばすことではありません。設備に対する要求条件が変化していく中で、その変化に対応した設備システム構築と機器の選択が長寿命化のポイントだと思います。例えば5年寿命の設備機器、10年寿命の設備機器、30年寿命の設備機器があるべきです。変化の多いところでは短い寿命の設備機器、変化が少ないところは長い寿命の設備機器にするという選択肢が必要だと思います。
これから重要なのは、クライアントの立場に立った顧客本位の設備の選択とライフサイクルサポートを実施することと、地球環境保全に寄与することを常に心掛けることです。
設備工事業は、自分達の本来のミッションと顧客並びに社会への貢献とは何かを真摯に考え、実践することが大切だと思います。
設備工事業にとって、いままで以上に設備機器メーカーさんと一緒に考えていくことも重要な要素になっていくでしょう。』

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