特集 「IT時代の建築設備設計/管理のゆくえ」 |
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第4回目は、(株)石本建築事務所 環境設備計画室
部長の木村博則氏にお話を伺った。石本建築事務所は、 ご存知のとおり、大手建築設計事務所で、海外の設計を含め数多くの建築設計を手掛けている。
今回のインタビューでは、ITによる設備の運用確認についてのお話や、環境対応の課題と展望など、さまざまなお話を聞くことができた。
インタビューを通して、設備設計の新しい業務領域の可能性や、設備機器業界の課題が見えてきた。 |
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【
ITによる設備設計/管理の変化について 】 |
Q:
ITによって、設備設計/管理は、実際にどのように変わってきていますか? |
『現在は、ニーズが多様化した時代になってきています。その多様化したニーズに応えるために、設計の中で多くの試みをしていますので、それが実際に予測したとおりにうまくいっているのか、或いは問題点があったのかを確認することは、設備設計者にとって大変重要だと思います。この確認とは、1〜2回見に行くということではありません。気候などの諸条件によって、設備の運用も違ってきますので、いくつかの違う諸条件の中で、設備がどのように運用されているか、建物の居住者や利用者にどのように受け止められているかを確認する必要があります。「自分の目で確認したいのが設計者」ですから。
しかし、建物が遠距離にある場合は、いくつかの違う諸条件において設備の運用の確認を行うことは大変困難でした。
これを可能にしてくれたのが、ITだと思います。設備にセンサーを取り付けて、インターネット経由でモニタリングするものです。
ここ最近、インターネットを使って設備がどのように運用されているかという現状把握を事務所に居ながらにして、しかもリーズナブルなコストでできる可能性が出て参りました。
これは非常に大きな変化だと思いますが、まだまだ過渡期にある技術だと思います。今後はもっと多くの設備機器にセンサーを取り付け、さまざまな設備機器がモニタリングできるようになるでしょう。そうなると、もっと多くのデータが揃い、適正な運転にかんする使用者へのサービス、さらには次の設計にフィードバックすることが容易になります。』 |
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【
設備設計者の責務と新しい業務領域の可能性 】 |
Q:
設備機器の運用データが揃うと、設備設計者の業務はさらに増えそうですね? |
『設備機器の運用データが揃い、インターネット経由のモニタリングをすることで可能になる新しい業務領域が生まれると思います。
竣工した建物は、利用者や管理者にとって、1年目はまだ設備機器などの使い勝手や適正な使い方が実際には理解しきれておらず、暗中模索の時期と言えます。
2年目になると、ようやく適正な使い方が理解され、設備機器の本来の運用がされていきます。そう考えると、設備設計者にとって竣工した時点はゴールではなく、中間点といえると思います。
従って、設備設計者のミッションから考えると、竣工後2年ぐらいまで設備の運用についてのチェックをすることが必要です。いままでは、「設計、設計監理、初期点検」という設備設計の流れでしたが、これからは「初期点検」のあとの新しい業務として、この竣工後2年程度の運用チェックを確立したいと考えています。もちろん、新しい業務領域として、フィーが得られるものにする必要があります。設備設計者のポテンシャルを上げる意味でも、重要な要素になると思います。
それから、これはコミッショニングとは違います。設計と直結したチェックをすることに大きな意味があるのです。』 |
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【
実際に現場を見ることの重要性 】 |
Q:
ITによって、これからは事務所に居ながらにして現場を見る機会が増えそうですね? |
『モニタリングシステムによって、竣工後に現場へ行かなくても設備運用のモニタリングは可能になりますが、竣工後に現場を見ることは今後優れた設備設計をする上で重要な要素です。インターネットなどのツールだけで全部見たと思うのは大変危険です。体感することが大事なのです。現場に行くと、必ず新しい発見があります。いろいろなことが見えてきます。現場を見ることは、ものを創ることの原点だと思います。
設備設計者は、各設備機器メーカーの技術者と打ち合わせをして、さまざまな情報を得るとともに確認をしながら設計を進めていきます。しかし、各設備機器メーカーの設計担当の技術者は、竣工後に導入された機器を見れないことが多いのが現状です。
そこで、以前に設備機器メーカーの設計担当の技術者の方々に、竣工した建物を見に行く機会をつくったことがあります。参加した人達の反応は大変好評でした。各設備機器メーカーの技術者も、設備の運用状態の実際を見ることは、検証の意味でも、また、今後に生かす意味でも非常に大事なことだと思います。』 |
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【
クライアントの環境配慮への認識の現状 】 |
Q:
最近、クライアントの要求は、どのように変わってきていますか? |
『全体的な質への要求が高まってきています。視覚的なものや、温度、臭いなどの"五感"に関する要求、さらに地球環境、周辺環境に関する要求です。
環境への要求が高まっているので、設備機器に関してはコストも以前より高くなってきています。いままではコストで選んでいましたが、これからはコストより環境で選ぶ傾向になると思います。すでに環境で選ぶケースが多く、コストで選ぶ場合と同じくらいの比率になってきています。
クライアントには、環境配慮への対応は、デザインと同じで良いものをつくるためにイニシャルコストが掛かるという認識がされつつあると思います。
それから、今後は環境に対して、総合的な評価も求められます。レーダーチャートという5〜6つの評価軸を5段階で採点して、評価を線で結び、多角形にする評価方法がすでに一部では使われるようになってきています。この評価基準は、建物用途によって、評価軸に入れる要素や評価基準を選択して使われていくようになっていくと思います。』 |
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【
求められる設備機器業界の情報公開 】 |
Q:
環境配慮と建築設備について、どのようにお考えですか? |
『環境に対して影響を及ぼさない機器や部材を使うことが重要です。しかし、現状では、それを判断する情報が圧倒的に不足しています。環境に対して影響を及ぼさない機器や部材を選択するためには、エネルギー、照明、空調などの設備機器全般に関するデータベースが必要になります。しかし、設計者がこれらの情報をすべて収集するのには無理があります。従って、各メーカーからの情報提供が求められます。今後は、各メーカーが情報をもっとオープンにしていく必要があります。
例えば、食品業界や自動車業界では、すでに情報をオープンにしています。これらの業界では、業界として取り組み、基準値を検討した上で各社がオープンにしているのです。自動車の世界と比較すると、建築の世界は一品生産という特異性はありますが、設備機器業界も業界全体として取り組み、オープン化を図るべきだと思います。グローバル社会への対応という意味でも、早急に業界全体として取り組んで欲しいですね。』 |
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【
建築設備と自然環境の共存 】 |
Q:
環境問題への関心が高まる中で、日本家屋が世界的に注目されています。今後建築は、設備機器を使わない日本家屋への回帰という方向性があり得るのでしょうか? |
『日本家屋の時代には、機密に建築をつくることが技術的に不可能だったのです。技術の飛躍的進歩で機密に建築をつくることが可能になった現在、しかも、便利さに慣れている中で、昔に戻るということはないでしょう。
昔に戻るということではなくて、自然環境を生かしながら設備機器を活用するということだと思います。
普段は設備機器がいらない環境が求められています。環境が自然に近い状態と、設備機器を使う状態との使い分けが求められていくと思います。人間の五感重視の設計が必要です。
例えば空調を例に取ると、オフィスや共有スペースでは、人によって体感温度が違いますから、空調機器の自動制御が必要です。空調機器のない中で、体感温度の違う大勢の人達が窓の開閉を各個人で判断していたら、もめることもあるでしょうから。』 |
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【
しっかりした視点を持つことが重要 】 |
Q:
これからの設備設計者は、何を重視していくことが重要だとお考えですか? |
『情報が氾濫する中で、多くの情報の中から設計するというスタンディングポイントで、しっかりした自分の視点を持って選んでいくことが重要だと思います。
設計者はものを決めていく連続ですから、ものを決定する過程で自分の視点を持って決めていかないと良い設計はできません。
自分の視点とは、設備設計的視点というよりも、その建物の性格や取り巻く諸条件などを深く考察した上での視点です。建物を取り巻く諸条件などを深く考察して、まずその建物に対するしっかりした視点を築くことが重要です。
そして、選ぶプロセスが大事だと思います。与えられた条件設定は、常に変わっていきます。その変化の中で、いかにその建物の諸条件に合った機器を選んでいくかというプロセスが重要なのです。機器のデータの確認をさまざまな条件設定の場合を想定して行い、その情報を蓄え、次の設計の際にフィードバックしていくべきだと思います。その際、設備機器メーカーとの協調も必要ですので、設備機器メーカーに対する期待は、先程申し上げた情報のオープン化を含めて、ますます大きくなってきています。今後の設備機器メーカー及び業界の取り組みに期待したいと思います。』 |