特集 「IT時代の建築設備設計/管理のゆくえ」 |
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第7回は、清水建設(株)エンジニアリング事業本部情報エンジニアリング部部長の谷岡雄一氏にお話を伺った。ゼネコンでは唯一、経済産業省のSI(System Integrator)登録企業である清水建設では、オープン化時代に対応した統合化された施設情報システムの構築の取り組み/提案/構築を行っている。
今回のインタビューでは、その具体的な取り組みや、オープン化の必要性、そして、IT時代における設備設計/管理の重要性など、これからの時代に向けての示唆に富むお話を聞くことができた。
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【
ITの普及による設備管理と企業経営の価値観の変化 】 |
Q:
ITの普及により、設備設計/管理はどのように変わってきていますか? |
『設備管理の方法が、大きく変わりつつあると思います。それは、ITの普及とともに、施設のオーナーや使用者の企業経営の価値観、モデルが変わってきているためです。
またITの普及により、ビルの情報設備分野においても情報化投資が増大しています。施設によっては情報化投資が建設費全体の10%を超えるものも出てきています。これは従来、建築設備といった範疇に入らなかった情報関連の設備が、オープン化、統合化(ネットワーク化)の流れの中で施設と一体で検討し、かつさまざまな情報システムを統合化する必要が出てきているからです。
企業経営の価値観が、どのように変わってきているかというと、キャッシュフローと実質現在価値でものを考える傾向が強まりつつあります。これは施設に対しても求められます。つまり、現在の自社の資産(不動産)の実際の価値や毎月キャシュフローが、いったいいくらなのかを知りたいという意味です。右肩上がりの経済の時代は必要なかったのですが、これからは、自社の資産や経費について、現在正当なのかどうかの評価をしたいというニーズがますます強まり、一般的化していくと思います。
建物の資産価値は、これから常に変動する時代になります。建物の資産価値を高める要素として、設備管理は大きな要因となりますので、その重要性はますます高くなっていくでしょう。
また、建物に関する現在の経費が正当なのかどうかの評価をする場合、建物の運用の中で、日常使っているのは設備機器であり、エネルギーなので、設備の運用コストが建物の運用経費であり、それが評価されることになります。
いままでは、設備管理の情報が経営情報と繋がっているとは、あまり思われていなかったのですが、これからは、設備管理の情報が、経営情報といかに繋がっているがポイントとなります。設備の運用コストの効率化をいかに図り、その日々の情報が経営情報といかに繋がるかが、今後大変重要となります。』
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【
施設情報化の担い手 】 |
Q:
施設の中に存在するさまざまな情報システムというと、多岐にわたるシステムですが、具体的にはどのようなシステムが入りますか? |
『施設の情報システムは、大きく分けて、次の4つに分類ができると思います。
- 基盤設備・インフラとしての情報システム
- 施設運営管理のための情報システム
- 事業運営支援のための情報システム
- 事業運営のための情報システム
「1.基盤設備・インフラとしての情報システム」とは、LAN、交換機、電磁環境システム、インターネット接続システムなどです。
「2.施設運営管理のための情報システム」は、設備管理、セキュリティ、防犯/防災、FM(ファシリティマネジメント)などのためのBA(ビルディングオートメーション)やFMシステムなどのことです。
「3.事業運営支援のための情報システム」は、生活支援システム、入退室管理、テナント管理などの支援システムを指します。
「4.事業運営のための情報システム」とは、施設を利用する事業体の業務そのものを行うもので、施設、業種により異なりますが、テナントビルではプロパティマネジメント、製造業では生産・物流管理システム、ERP、SCMなど、医療施設では電子カルテやオーダリング、学校では学籍管理など多岐に渡ります。
この2.については、設備分野、特にビル管理システムのメーカーが強い分野で、1.と4.は、IT系企業が強い分野で業界としては大きく異なっています。当社はビル管理システムだけでも500以上のシステム構築の実績を持つ企業です。また、FA分野の通信プロトコルの世界標準をつくるなど、産業用ネットワークにおいて、我が国の先導的立場で活動し、ゼネコンでは唯一経済産業省のSI(System Integrator)登録企業です。
ゼネコンは、元々インテグレーションが業務でもありますが、この2つの強みによって、当社では、統合化された施設情報システムの構築の取り組み/提案を行っています。』
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施設情報化の背景

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【
オープン化と施設情報化の必要性 】 |
Q:
具体的には、どのような取り組みをされているのですか? |
『当初、空調と電気設備の中央監視システムの統合から始まったシステムの統合化の方向は、オープン化、標準化という時代の流れの中で、さまざまな施設内のシステムが統合されるようになりつつあります。
また、ITの急速な普及の中で、施設を有効に活用していくためには、施設内のシステムの統合化は不可欠な要素となってきています。
このような状況の中で、統合化された施設情報システムの構築が求められています。当社では、「施設情報化」という言葉を使っておりますが、この「施設情報化」を当社では実践しております。
従来の施設情報システムは、クローズドな世界で、オープン化されていませんでした。中央監視・自動制御の分野では、特定メーカーの寡占状態でオープン化がほとんどされていません。防災・防犯なども、さまざまな公的規制により、各専業メーカーが独自のものを自己完結で提供していました。
当社で行っている「施設情報化」は、オープン化に対応した統合された施設情報システムを構築するものです。
LON採用により、中央監視と自動制御の融合や、設備サブシステムの統合を実現し、オープンシステムとの親和性を高めたシステムを構築しています。』
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従来の施設情報システム
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LON採用により統合化された 施設情報システム
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【
LONの採用によるオープン化の実現 】 |
Q:
LON採用により統合化とオープン化を図られていますが、LONについて、詳しくご説明頂けますか? |
『LONとは、Local Oparating Networkの略で、米国エシュロン社が開発したBA分野の知的分散制御ネットワーク技術です。
欧米では、ビル設備において、すでに数多くLONが採用されています。
LON搭載製品として認定を受けた製品、つまり、通信制御機能を持つLSI(Neuron Chip)を搭載した設備機器を使用することで、異なるメーカーの製品間においても、情報のやり取りが保証されます。従って、従来システム構築に多大な負荷がかかっていたBAのシステムでも、LON搭載製品として認定を受けた製品を使用すれば、短期間に、安価に構築することが可能なのです。
LONの特徴としては、すべての設備機器がLON搭載により知能化(自律分散型)にでき、機器間の通信が簡単で、少ない配線でできるなどが挙げられます。LON搭載機器の調達はオープンで、メーカーを問わず接続が可能です。
LONは、設備監視/制御システムの分散化、ネットワーク化、オープン化を推進するための手段で、ユーザーに多大なメリットを提供するものなのです。』
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【
資産価値を高めるための設備設計/管理管理 】 |
Q:
先程「建物の資産価値を高める要素として、設備管理は大きな要因となる」といわれましたが、少し詳しく伺えますか? |
『いままでは、100億円で建てたビルは、100億円の資産価値と思われていました。しかし、これからは、建物の資産価値が実質の価値、つまりその建物が事業性からどれだけの価値があるかからで評価されるようになります。
現在100億円のビルの資産価値をいかに120億円に上げていくか。これに貢献するのも設備管理の大きな役割なのです。ランニングコストの効率が大変優れた設備であったり、リニューアルによって、時代にマッチした設備の大幅な機能アップを図るなど、設備の果たす役割には大きいものがあります。
実際、最近のリニューアルは、設備の機能をアップするケースが増えています。
また、建物の用途の広がりを考えた設備設計/管理という視点も重要です。
例えば、図書館がいい例です。図書館を最近は「メディアセンター」と呼ぶことが多くなっています。図書館とは、知識・情報の集約された場所です。本も1つのメディアとして、ビデオ、CD、DVD、あるいは電子化されたデーターベースなど、いろいろなメディアが提供されるようになっていきます。
IT時代の技術の変化により、図書館の用途が大きく変わろうとしています。その変化に対応できる建築であり、設備である必要があるのです。』
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【
ITとFMによる新しいビジネスモデル 】 |
Q:
LCM(ライフサイクルマネジメント)やFMが、今後ますます注目されますが、どのようなビジネスモデルが生まれ、その中でITがどう活用されていくとお考えですか? |
『プロパティマネジメント機能を提供する「プロパティデータバンク(株)」という会社があります。これは、当社とケンコーポーション(株)、中央三井アセットマネジメント(株)、みずほベンチャーファンド、日本ヒューレット・パッカード(株)の5社で設立した会社です。
同社は、複数の不動産資産の運用効率向上を図るための各種運用・管理ツールを、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)サービスにより低価格に提供することを目的に、2000年10月1日に設立されました。
不動産の運用・管理に関するASP事業や、不動産の運用・管理に関わる情報管理業務、ASPシステムに関するシステムインテグレータ業務を主な業務としています。
具体的には、建物・土地のオーナーや管理会社が、日々の不動産運用や管理業務上で活用できる業務支援ツールを、インターネットを通じたASPサービスを提供するものです。各不動産の資産評価、正確な運用・管理コスト、各建物の運用状況など、最新の資産情報に基づいた戦略的な運用を可能にしています。
この会社は、昨年4月に当社で設立した社内ベンチャー適用第一号の会社で、社長はそれに応募した37歳の若手で、時代のニーズにもマッチしており、建設業に関連した新しいビジネスモデルとして、今後が大変楽しみな会社です。』
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【
必要なのは積極的に変化・発展していくという姿勢 】 |
Q:
これからの設備設計者/技術者は、IT時代に対応するために何を考えるべきですか? |
『ITの普及、オープン化という時代の中で、どのようなことをすべきか考えることが重要です。また、時代の変化を感じることも大事です。
ITによって、あらゆる産業の構造が変わってきています。建設業も産業の1つですから、同様に変わらざるおえません。自分達も当事者なのです。従って、我々もITと接点を持って、積極的に変化・発展していくという姿勢を持つべきだと思います。
例えば、いま建設業では、一括発注のほかに、CM(コンストラクションマネジメント)などの多くの発注モデルが出てきています。言い換えれば、いままでは、コース料理しかなかったのが、アラカルトで自由にお客様が注文できるようになろうとしているのです。自由な注文に対応する必要が出てきているわけですが、これらの現象にITの役割は非常に大きいと思われます。これを後ろ向きに考えずに、メニューが増えると考えて、積極的に対応すればいいと思っています。
ITを手段として、効率化とコストダウンを図り、施設を提供するお客様や時代のニーズにいかに応えていくかを考え、実践する。これを積極的に行うことで、新しい視界やビジネスチャンスが開けてくると思っています。』
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