特集 「IT時代の建築設備設計/管理のゆくえ」 |
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第8回は、ダイダン(株)技術管理部CAD課部長の神田茂男氏にお話を伺った。大手サブコンであるダイダン(株)では、ITインフラ整備によるペーパレス化や、独自のデータベースによる設備診断などの取り組みを行っている。
今回のインタビューでは、その具体的な取り組み内容や、IT活用による効率化の重要性など、IT化による具体的なメリットについてのお話を聞くことができた。
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【
ITの普及による業務の効率化の実際 】 |
Q:
ITの普及により、設備設計/管理はどのように変わってきていますか? |
『PCやインターネットをはじめとするインフラが整ってきたことにより、業務がスピーディに進むようになってきました。
これは、海外とのやり取りにおいて特に顕著で、例えば、マニラに夕方Eメールで図面を送っておくと、次の日の朝には質問が返ってきており、格段の時間効率化が図れています。
現場では、図面をメールでやり取りしていますので、移動などの時間短縮が図れています。1回のメールで送れるデータ要領の上限は1MBですが、図面によっては必要箇所を切り出して送っています。
また、現場との図面のやり取りは、図面データをメールで送って、届いた図面をプロッタで出力せずにチェックしてもらうことをできるだけ行っています。このペーパレス化により、紙代の節約と、図面の収納スペースの効率化が図れています。
施工要領書はCD-ROMになっており、デジタルデータなので、CDの方が以前のデータを加工・修正して作成できますので、慣れれば相当な効率化が図れます。
現場の業務は、一般に施工図作成、現場監理、予算管理の3つがだいたい1/3ずつといわれていますが、その中の予算管理の部分、具体的には現場の予算管理、資材の発注、請求書についても電子化されており、また、現場内でできるだけ業務を処理するようにしています。例えば、現場の小口精算は、現場の人に現場の近くの銀行に口座を開設してもらい、その口座に振り込むようにしております。いままでは、現場からいちいち会社に現金を取りに来たり、それを渡す人が待っているようなことをしていましたが、その手間が解消されています。』
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【
ITインフラ整備に伴う課題と解決法 】 |
Q:
ITの普及に伴い、どのような課題が出てきていますか? |
『インターネットをはじめとするITのインフラが整ってきたのですが、それにまだ人間が完全にはついていけていないという点が課題ですね。若い人を中心にITを上手に活用する層と、ついていけていない層とに二分されているのが現状です。
当社では、新人研修に力を入れています。特にCADについては独自の社内マニュアルを作って研修を行っています。2級管工事施工管理士の資格を取らせてもいます。新人研修に力を入れていることもあって、若い人達のほとんどはITを上手に活用しています。
また、当社ではペーパレス化を進めています。メールや掲示板に弱い人たちにITに慣れてもらう意味もあって、工程表や個人のスケジュール表はホームページにアップして、ホームページを見ないとわからないような仕組みとなっています。
また、社内掲示板もホームページにアップして、紙を廃止しました。従って、ホームページを見ないと社内情報が得られなくなってきています。この社内掲示板には大変効果があって、当初、役員は「自分達には紙が配られるだろう」と思っていたようなのですが、役員も一般社員同様に紙が配られませんでしたので、全社員・全役員がホームページを見ざるを得ないという認識になってきています。』
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Q:
ITのインフラ整備と社内掲示板のペーパレス化など、IT化が進んだ理由は何ですか? |
『最も大きな要因は、社長からのトップダウンでIT化を進めたことです。会社のトップがIT化に理解がありますので、一気に進んだものと思われます。この要因が大変大きいですね。』
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【
CAD/CAMへの取り組み 】 |
Q:
CAD/CAMへの取り組みもされていますが、どのように取り組まれたのかお伺いできますか? |
『ダクトに関して、図面に書いたとおりカッティングしても組み立てられないということがありました。そこで、組み立てられないものはソフトウェアの段階でチェックがかかり、カッティングできないソフトにして欲しいという要望が、私が所属するCAD研究会に出ました。この要望は、当時のダクト業界などから出たものです。
そこで、ダクトについては、CAD/CAMの実現を図りました。現在では、ダクトとのほとんどはCAD/CAMで作成されています。
そして、これからはパイプのCAD/CAMが必要になってきます。ISO14000を考えると、現場でゴミを出さないことが求められていきます。また、ゴミ処理の費用は、全体コストに大きく影響しています。従って、工場で加工して持っていき、現場にはできるだけ人を入れない方法が求められるのです。現場で働く人の人数を減らせば、事故も減りますので、安全面からも、これからはパイプのCAM化は必須になっていくでしょう。』
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【
最短で製品を仕上げるために 】 |
Q:
設備工事における今後のテーマについてお伺いできますか? |
『最短期間で製品を仕上げることがまず第一だと考えています。時間の短縮により、大きなコストダウンが図れるからです。コストの中で人件費の占める割合が最も大きいわけですが、時間の短縮によって、この人件費の大幅な削減が図れます。
そして、最短で製品を仕上げるために、できるだけユニット化することが重要です。例えば、マンションは、プレハブの壁にできるだけ機器などを埋め込むようにして、現場でものを組み合わせるのではなく、可能な限り工場で作ってくるようにしています。また、コンクリートはつなぎの部分だけに使うようにしております。これからは、このユニット化が、ますます進んでいくと思います。
それから、図面作成の効率化も大きなテーマです。AI(人工知能)を使ったCADにより、今後図面の作成は効率化が進むと考えています。図面作成の際に、サンプル図面を見ながらコピー&ペーストなどをすることにより、線を一本一本引くといういままでの図面作成とは違う書き方になっていくでしょう。』
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【
独自のデータベースによる設備診断への取り組み 】 |
Q:
御社では、設備診断を積極的に展開されているようですが、詳しく伺えますか? |
『私は専門部署ではありませんが、当社では、当社が工事を行った過去10年程度の竣工データをすべてデジタルデータ化したデータベースを構築しております。もちろん、単にデータ化したものではなく、分析を行い、各種分析データも持っています。
現在、このデータをツールに、営業が積極的な展開を図っています。本年より、エンジニアリング部がリニューアル部という名称に変わりました。この部署だけで100名以上のスタッフがいて、この中に設備診断を行うチームがあります。
当社では、「経験豊かな診断スペシャリストを丸ごとパソコンに入れられないか」という発想から、パソコンによる設備診断システムを開発し、設備診断の「効率化」と「高精度化」を実現しています。つまり、診断依頼に対して迅速かつ高精度な対応を可能にしています。
また、より正確な診断を行うためには、診断データの収集・分析及び現場へのフィードバックが重要であると考え、全事業所における診断用コンピュータのオンライン化を図り、設備診断ネットワークを構築しております。これにより全国どこでも常に最新の診断技術により対応することが可能になっています。』
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【
ASPとエクストラネットの実践 】 |
Q:
最近話題のASPや現場内のエクストラネットについては、どのように対応されていますか? |
『最近の現場では、エクストラネットを組むケースが非常に増えています。大きい物件では、ほとんどの場合エクストラネットを組んでいます。
エクストラネットのメリットとしては、効率化が図れるという効果が最も大きいですね。実際に現場における手間が軽減されています。
エクストラネットの構築の費用は、JV各社で負担しています。そのコストは現場によってまちまちで、現場によっては高額な場合もありましたが、概ねペイしていると思います。』
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【
CADを使ってもっと休もう 】 |
Q:
これからの時代に設備設計者/技術者は、どのような意識、姿勢を持つべきだと思いますか? |
『いつの時代も変化の時期という時があります。以前にもT定規がドラフターに変わった時代がありました。
現在のIT革命は、まさに新しい変化の時です。ドラフターやペンが、マウスとキーボードに変わってきているのです。PCやCADを使わない人の中には、いまでも忙しいのにPCやCADを使ったらさらに忙しくなると誤解している人もいます。そんなことは決してないのです。逆にPCやCADを使うことにより効率が上がり、使い出した人は手放せなくなっています。忙しい人こそ、IT化すべきなのです。
ITを普通に使う人達ばかりになった時に、ITを使えない人は取り残されてしまいます。
従って、もっと勇気を持ってIT化に取り組むべきなのです。そして、「CADを使ってもっと休もう」というぐらいの気持ちを持って欲しいと思います。』
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注) 神田茂男氏の所属・役職は、このインタビューを実施した2001年5月14日時点のものです
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