■ 特集「設備設計/管理 最新ITレポート」
第8回「省エネコンサルティングサービス」
(株)オーク・エルシーイー
取締役社長
清水 満 氏
「設備設計/管理 最新ITレポート」の第8回は、「省エネコンサルティングサービス」をテーマに、(株)オーク・エルシーイー取締役社長の清水 満氏にお話を伺った。
同社は、ビルや工場などの省エネルギーに関する総合コンサルティング事業に本格参入するため、大林組が本年4月に設立した全額出資の子会社である。ゼネコンが省エネルギーサービスに特化した新会社を設立するのは初めてである。
スクラップ&ビルドの時代から、ストックの時代へと変わっていく中で、省エネ市場は、非常に有望な市場である。
今回のインタビューでは、同社の事業の概略やこれまでの経緯、今後の予定や展望などについてお伺いした。
インタビューを通して、建築に関連したソフトビジネスの明るい未来が見えてきた。
省エネコンサルティングサービス
1.事業の概要と会社設立の経緯
2.ESCO事業は日本流の在り方が必要
3.省エネ診断業務のフロー
4.約20%の省エネは可能
5.ソフトウェアを活用した省エネ診断/分析
6.クライアントの反応
7.今後の目標と新しい可能性について


【事業の概要と会社設立の経緯】
Q: まず、御社の事業の概要と設立の経緯についてお伺いできますか?

『当社は、省エネに対するニーズの高まりに合わせて、大林グループとして蓄積された豊富な技術とノウハウを生かし、顧客のニーズに合わせた最適な省エネコンサルティングサービスを提供するため、本年4月2日に設立した会社です。
省エネの目標達成には、1つの技術だけではなく複数の技術が必要です。従って、建物と設備について豊富でかつ総合的な知識と経験を有するゼネコンの技術とノウハウは大変有効であり、その優位性を生かした省エネ診断と省エネ改修計画の提案を行い、省エネルギーのトータルマネジメントを行うものです。
省エネ診断と省エネ改修計画の提案以外の主な事業内容は、省エネルギーリニューアル工事のプロジェクトマネジメント、省エネルギーのコミッショニング(性能検証)、ESCO事業などです。
また、大林組と別会社にしたのは、客観的な目で、省エネコンサルを行うためです。
当社の設立の背景としては、次の4つが挙げられます。

1つは、環境問題と省エネに対する社会的ニーズの高まりや、改正省エネルギー法(平成10年6月改正、平成11年4月施行)への対応の必要性です。

2つめに、ビルオーナー、ビル管理会社などお客様からのビル管理・運営費用の削減を求めるニーズの顕在化。

3つめは、化石燃料をはじめとする資源の将来的な不足と代替エネルギー開発に確とした目途が立っていないという現状不安。

そして4つめは、省エネ診断という、いわゆるソフト・サービス面に関して、いままで評価の低かった社会の価値観を高めたいという会社の姿勢。』


【ESCO事業は日本流の在り方が必要】
Q: ESCO事業も手掛けられるのですか?

『もちろん、ESCO事業も事業内容の1つで、今後、ESCO事業に関しても、包括的なサービスを提供して参ります。
ESCO事業は、省エネルギーに関する包括的なサービスを提供し、その結果として、生み出されたお客様のメリット(エネルギーコストの削減)から一定期間内に投資コストを回収するとともに報酬を享受する事業で、ESCO事業者は、事業の遂行にあたり、一定の省エネ効果を保証するものです。
ESCO事業の市場規模は、潜在的に2兆4750億円との試算もあり、大変大きな市場が見込まれていますが、米国流のESCO事業のやり方が、そのまま日本に根付くとは考えておりません。日本流のESCO事業の在り方が必要だと思っています。これから、日本流のESCO事業の在り方を構築し、啓蒙していくことが重要だと思います。当社もその一端を担いたいと思っております。
現在は、まだ日本流のESCO事業の在り方が模索されている段階ですので、当社では、当面はESCO的業務という形で行っていきたいと考えております。』


【省エネ診断業務のフロー】
Q: 省エネ診断/分析は、実際にどのように行うのですか?

『まず、問題点の概略を把握するために、「予備診断」を行います。「予備診断」では、エネルギー使用量、建築や主な設備システム、運用状況、省エネ手法の採用程度などを調査します。
エネルギー使用量は、最近3年間のデータを月別に収集します。建築や主な設備システムは、竣工図や設備更新履歴などから拾い出します。運用状況、省エネ手法の採用程度については、竣工図、設備更新履歴、現地調査や問診などで収集します。
これらのデータを基に、診断を行います。診断では、「傾向診断」、「比較診断」、「採用診断」、「省エネルギー目標値の設定」などを行います。
「傾向診断」では、電気、ガスなどのエネルギー源別に、月別消費量変動表や年度別消費量変動表を作成します。
「比較診断」では、当該建物の使用エネルギーと、社内外のデータベースを基にした同用途・同立地および同規模の建物での平均値とを円グラフで比較します。
【予備診断】
傾向診断〜エネルギー源別、月別、年別
【予備診断】
比較診断〜同様の建物との比較

「採用診断」では、竣工図と設備更新履歴を基に、建築・設備システムごとに採用している省エネ手法を列記した表を作成し、その手法が適切かどうかコメントします。
「省エネルギー目標値の設定」では、達成可能(リニューアル可能で、投資効果が見込めるよう)な目標値を算出します。
そして、成果品として、「予備診断報告書」をまとめるとともに、省エネ目標として、「10%診断計画書」または「20%診断計画書」を作成し、提出します。
「予備診断」は全体的に現状と問題点の概略を把握し、省エネの目標値を設定するもので、期間は約2週間程度です。』
【10%診断・20%診断】
傾向診断〜一次エネルギー用途別、月別、年別
【10%診断・20%診断】
省エネルギー個別評価
【10%診断・20%診断】
総合評価 経済性
【10%診断・20%診断】
総合評価 環境性


【約20%の省エネは可能】
Q: 予備診断は、これまで何件くらい実施されたのですか?
また、その結果、省エネ効果の予測値はどれくらいになっているのですか?
『会社設立前の準備期間であった約1年間で、29社のお客様に「予備診断」を実施しました。これらの省エネ改修による効果予測を平均すると、現状に比べて、16.2%のエネルギー削減効果、17.3%のCO2削減効果があるという結果になっています。』
Q: 予備診断を受けて、その後どのような流れで省エネを達成するのですか?

『先程お話しました「予備診断」の最後に作成する「10%診断計画書」または「20%診断計画書」に基づいて省エネの詳細診断を提案致します。
「予備診断」の結果、省エネルギー目標値の設定が省エネ率10%の場合には「10%診断」を、省エネ率20%の場合には「20%診断」を実施することになります。
どちらも問題点の詳細を把握し、改善を実施するために行うものです。
「10%診断」では、建築・設備システムの運用と更新が対象になります。一方、「20%診断」では、建築・設備システムの運用と更新に加え、改修が対象になります。
「10%診断」、「20%診断」では、エネルギー使用量、機器劣化度、各種負荷、各種機器の運用状況を調査します。
エネルギー使用量は、「予備診断」と違い、最近3年間のデータを使用用途別・月別に収集し、統計処理します。機器劣化度のチェックは、目視、問診や機器管理台帳のデータなどで行います。各種負荷は、測定またはシミュレーションで算出します。それから、各種機器の運用状況を整理してインプットデータを設定します。
なお、エネルギー使用量などのデータは、お客様のエネルギー台帳に基づきますが、必要に応じて実地検証や数値補正を行います。
これらのデータを基に、エネルギー使用量の「傾向診断」、「比較診断」、さらに、「省エネルギー手法の選定/効果算定」を行い、運用上の工夫による対応策、部品、機器などの更新案、システムの変更を伴う改修案を作成し、それに要する概算工事費を算出します。
そして、選定された省エネ手法の「個別評価」を行い、それらを組み合わせた「総合評価」を示すために、経済性、環境性(CO2の削減)の両面からベクトル図を作成し、「10%診断報告書」または「20%診断報告書」として提出します。
なお、期間は「10%診断」が約5週間、「20%診断」が約8週間程度です。』


【ソフトウェアを活用した省エネ診断/分析】
Q: 診断のための解析はどのように行っているのですか?
『診断のための解析(「総合評価」)は、「エコナビ」という独自のソフトウェアで行っています。「エコナビ」は、大林組が開発した省エネ・コスト低減効果と投資回収額をシミュレーションするソフトウェアです。「エコナビ」には、新築バージョンとリニューアルバージョンがあり、新築バージョンは約2年前、リニューアルバージョンは約1年前に開発されました。大林組での豊富な利用実績があり、データベースも充実しています。
先程の「予備診断」、『10%診断』や『20%診断』で収集したデータを基に「エコナビ」に入力し、解析しています。
そのほか、「バッチ計測システム」や「O-LCC」など、大林組が独自に開発したシステムを活用して、データ収集や、省エネ診断・長期修繕計画などの提案を行っています。
また、ITに関連してですが、インターネット経由で当社のホームページにアクセスして頂き、お客さまが自社の運用データを直接入力することによって、簡単な省エネ診断のサービスを受けられるWeb診断の仕組みを構築し、実用化しています。』


【クライアントの反応】
Q: 現状とクライアントの反応、現状の課題について伺えますか?
『まだ会社を設立して2ヵ月ですが、すでに約20件の引き合いを頂き、その中の5〜6件は既に診断業務を行っています。この引き合いは、省エネ診断が主ですが、予想以上のペースで引き合いを頂戴していると思っています。
おかげさまで、順調なスタートとなりました。
今後は、これをリニューアルにつなげていき、省エネリニューアル工事のプロジェクトマネジメントやコミッショニング(性能検証)を手掛けたいと考えています。
お客さまの反応としましては、自社のエネルギーコストとエネルギー消費量が適正かどうか、そして、どれくらいの省エネが図れるのかを知りたいというニーズは非常に高いですね。それから、省エネコンサルを依頼するにあたり、中立な立場で発注者側に立つことを求めるお客様が多いことを実感しています。予想を上回る多くの引き合いを頂戴した背景には、この『中立的な立場での診断』に対する根強いニーズと、大林組とは別会社で、客観的な目で省エネコンサルを行うという当社のスタンスが理解され、受け入れられた結果によると思います。先程お話しました、会社準備期間中の約1年間に予備診断を実施した29社のお客様のうち実にその3/4が、大林組と設計や工事などで関係がなかったことは、その証左だと思います。
当面の課題は、“人材の確保”です。省エネ診断は、技術者の能力と経験によるところが大きいので、人材確保と育成は不可決の要素です。人材確保と育成を当社と大林組の両者で協力して行っていきたいと思っています。』

【今後の目標と新しい可能性について】
Q: 最後に、今後の目標と、省エネに関する新しいビジネスの方向性について伺えますか?

『目標は、環境問題と省エネに対する社会的ニーズに応え、エネルギーコストの低減と温室効果ガスの排出削減を達成し、社会に貢献することです。それが当社のミッションであり、目標です。
省エネに関する新しいビジネスの方向性ですが、これからは、ソフトビジネスの時代です。ソフトやサービスに関連したさまざまなビジネスが出てくるでしょう。
例えば、テナントサービスのメニューに“省エネコンサル”を加えることで、ビルオーナーのビジネスチャンスを支援することや、ビル管理者が自前の努力によってなし得た省コスト効果に対する報償制度の仕組み作りに対する支援、アセットマネジメントやプロパティマネジメントなどニュービジネスにおける活躍のチャンスなど、枚挙にいとまがありません。また、省エネという切り口で、ISO14000の取得をバックアップするということもビジネスに繋がるのではと考えています。ISO14000の取得は、大手企業であれば社内で対応できますが、中小企業は社内だけでは取得が難しいのが現状です。ISO14000はグローバル化の中で、中小企業といえども必須となっていくでしょう。従って、ISO14000の取得のバックアップはニーズが高く、それを省エネという切り口でバックアップすることのニーズが、今後高まるのではないかと考えています。
この辺りの発想は、大林組にいた時には、思い付かなかった発想です。新しい会社を立ち上げ、省エネコンサルティングという新しい切り口で、さまざまな方々と交流する中で、いろいろなアイデアが出てきています。その意味では、いままで大組織にいた人達が、新しい会社を立ち上げ、新しい切り口で多くの方々と交流することが、今後の新しいビジネスモデルを生み出していくのではないかと思います。』

株式会社 オーク・エルシーイーのURL
http://www.oak-lce.com/

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